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シンクロする1940年と2020年

占領都市
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 併せて興味深いのは撮影が行われた2020年が偶然にも地球規模のパンデミックと重なったことだ。撮影はアムステルダムで最初のロックダウンが始まった頃に開始されている。ゴーストタウンのような街を俯瞰で捉えたドローンの映像。ウイルスによる都市の侵略とナチスドイツの占領下で起きたことが時空を越えて奇妙にシンクロしていく。人権も言論の自由も奪われた占領下での出来事の数々が、ウイルスとの戦いに勝つために外出の自由を剥奪された2020年とシンクロしていく。

 それが歴史は点ではなく、線であり、面であることを思い出させてくれる。ナチス・ドイツによるユダヤ人絶滅政策がヨーロッパにおける長年のユダヤ人に対する差別と迫害が行き着くところまで行き着いた最果ての地獄だということを。

 そもそもの発端は2000年前まで遡る。パレスチナの地にあったユダヤ王国はローマ帝国に侵略された。パレスチナを追放されたユダヤの人々は流浪の民として世界中に散らばった。ヨーロッパで長年に渡って差別や迫害に苦しんだ彼らは、キリスト教国の多くで卑しいとされていた金融業を営み始める。シェイクスピアの「ヴェニスの商人」だ。

やがて訪れた金融経済社会で富を握った彼らをアドルフ・ヒトラーは「世界恐慌によるドイツの失業問題の原因はユダヤ人にある」と主張。第一次大戦によって多額の負債を背負わされていたドイツ国民がこの愚かな被害妄想を支持したことで、政権を握ったヒトラーはドイツ国内からユダヤ人を追放、やがては強制収容所での大虐殺と蛮行をエスカレートさせていく。

「私の手でユダヤ人のいない世界を創る!」

 ヒトラーがユダヤ人を絶滅させようとした1940年とCOVID-19をしようとしていた2020年がシンクロしていく。パンデミックを背景にナチスの蛮行が語られていくことで、ヒトラーがユダヤ人を同じ人間とは見ていなかったことが、彼らをウイルスと同じように見ていたという吐き気がするような事実がより強く感じられる。

 当時のアムステルダムはナチスが政権を取ったことでドイツから亡命したユダヤ人が数多く暮らしていた。ドイツのフランクフルトで生まれたアンネ・フランクもそのひとりだ。しかし、1940年5月にドイツはアムステルダムを占領。1942年7月からはオランダ人協力者と一丸となってユダヤ人を強制収容所に輸送し始めた。

 占領とともに隣人だったオランダ人の裏切りや密告により強制所送りにされたユダヤ人たちのエピソードが数多く語られていく。ナチスを恐れて加担者となったオランダ人がコロナ禍の自粛警察と重なっていく。市民同士が監視の目を光らせ、ヒステリックなまでに他者を糾弾する。過剰な防衛本能により暴走した正義感。その火種はアフターコロナとなった今もわたしたちひとり一人の中で燻っているのではないだろうか。

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