子のために成長した父の姿を描いた秀作
『クレイマー、クレイマー』(1979)
監督:ロバート・ベントン
脚本:ロバート・ベントン
原作:エイヴリー・コーマン
出演:ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ、ジャスティン・ヘンリー、ジェーン・アレクサンダー
【作品内容】
仕事一筋で家族を顧みないテッド(ダスティン・ホフマン)。妻のジョアンナ(メリル・ストリープ)の話も聞かずに、自分の仕事ばかり優先している。
不満を募らせた彼女はある日、7歳の息子ビリー(ジャスティン・ヘンリー)を残して、家出してしまう。
翌日から、テッドは仕事と家庭の両立をしながら、ビリーを育てるが…。
【注目ポイント】
妻に子育てを任せきりだった夫が突然、男手一つで息子を育てることになったら?
仕事人間だったテッドは、家庭に無頓着だ。毎日妻のジョアンナに料理を作らせていたので、息子のビリーの朝食に何を作ってやればいいのかわからない。
とりあえず朝食にフレンチ・トーストを作ってみるものの、その手際は見ていられないレベル。割り入れた生卵の殻は指で取り出すし、食パンを浸す入れ物はボールではなく小さなコーヒーカップだ。
そして、いざ、フライパンでトーストを焼いてみるが、不注意で焦がしてしまう。しまいには、フライパンをひっくり返して、かんしゃくを起こす始末だ。
そんな不器用な父デッドが、ビリーの良い父親になろうと努力する姿が涙ぐましい。
筆者が個人的に印象的に残ったシーンは、ビリーが遊具から落ちて大けがをした時に、テッドが病院に駆け込むシーンだ。
「私の息子だ。そばにいてやりたい」
痛がるビリーの顔を10針縫う事態に、テッドはつきっきりでケアするのである。
このシーンには、テッドが息子のビリーを男手ひとつで育てていこうとする決意が、感じられる。
しかし、ビリーの親権は、妻のジョアンナに渡ってしまう…。ビリーと過ごす最後の朝。テッドはビリーに、はじめて作ったフレンチトーストを料理する。そこには、慣れない手つきで料理をしていた頃のテッドの姿はない。
このシーンを目にした瞬間、思わず拍手を送りたくなること請け合いだろう。料理だけでなく、父親として成長したテッドの姿を見たからだ。
最終的に妻のジョアンナは、ビリーを引き取ることをあきらめる発言をして、物語は幕を閉じる。結局、3人はどうなるのだろうか? 観る者に未来を想像させる終わり方となっている。