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のん”加代子”の七変化がすごすぎる! 映画『私にふさわしいホテル』に込められた文学界への皮肉とは? 考察&評価レビュー

text by ばやし

のんが主演を務める映画『私にふさわしいホテル』が現在公開中だ。本作は、柚木麻子原作の小説を原作に、数々のヒット作を生み出す堤幸彦監督がメガホンを取った作品だ。今回は、小説家の矜持と情熱を鮮烈に映し出した本作の魅力を紐解いていく。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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【著者プロフィール:ばやし】

ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。

柚木麻子原作の文壇下剋上エンターテイメント

(C)2012 柚木麻子/新潮社 (C)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会
(C)2012 柚木麻子/新潮社 (C)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会

「文壇下剋上」なるあまりにも見慣れない謳い文句から繰り広げられるのは、キャラクターの個性が爆発する昭和を舞台にした痛快なエンターテイメント群像劇だ。

 柚木麻子の同名小説が原作となっている物語は、権威性を帯びる文学界への果たし状かのような強烈な皮肉が込められつつ、個性がそのまま一人歩きした登場人物たちによるコミカルな復讐劇が描かれている。

 始まりの舞台となるのは三島由紀夫や川端康成など、かつて多くの文豪が愛した「山の上ホテル」。しかし、映画の冒頭で颯爽と文豪の聖地へと足を踏み入れたのは、まだ単行本が一冊も出版されていない新人作家・中島加代子(のん)だった。

 実は、彼女はとある出版社の新人賞を獲得したものの、大御所作家である東十条宗典(滝藤賢一)に自身の作品を酷評されたことで、単行本化が立ち消えになってしまったのだ。

 そんな不遇な彼女が作家を気取るために自腹で訪れた「山の上ホテル」の一室で、原稿に手をつけようとしたところにやってきたのが、大学サークルの先輩でもあり、「小説ばるす」の敏腕編集者でもある遠藤道雄(田中圭)だった。

 最初は遠藤の挑発にやり返していたものの、この場所を訪れた目的が上階に宿泊する東十条だと知るや否や、彼女は自身を貶めた大御所作家への復讐を企む。

 かくして、ふたりの作家人生を賭けた蹴落としあいバトルの火蓋が切られたのであった。

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