感動しすぎて放心状態…号泣する人続出の理由とは? 映画『サンセット・サンライズ』評価レビュー。宮藤官九郎の脚本を考察

text by 小林久乃

菅田将暉が主演を務める映画『サンセット・サンライズ』が公開中だ。本作は、東京で働く釣り好きのサラリーマン・晋作(菅田将暉)が東北の小さな町に移住し、そこで出会った人々と交流を深めていく移住エンターテインメント。今回は、本作のレビューをお届けする。(文・小林久乃)【あらすじ キャスト 解説 考察評価 レビュー】

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【著者プロフィール:小林久乃】

出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」にて作家デビュー。最新刊は趣味であるドラマオタクの知識をフルに活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディア構成、編集、プロモーション業などを生業とする、正々堂々の独身。最新情報はこちら

大事なのは何をして生きたいのか

©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

 映画『サンセット・サンライズ』を観た。監督は岸善幸氏、脚本は宮藤官九郎氏、主演は菅田将暉。東京のサラリーマン・西尾晋作(菅田将暉)はコロナ禍のテレワークを機に、東北へお試し移住。そこで思わぬ方向へ人生が変わっていく物語だ。地方移住は珍しいものではなくなった昨今。ただ西尾が向かった震災の被災地で、時期はパンデミックの真っ最中というタイミングだったことが、彼の日常を大きく刺激することになる。とても良い映画だった。2025年も始まって間もないのに、胸くすぐられる作品に出会ってしまった。

 ちなみに平日の夕方という、混雑を避けた時間帯を選んで映画館に出かけた。自由業の特権である。静かに観られるはずだったのに、私の後席にはビニールから何か食べ物を取り出している客が…。ビニールを開封する、ちまちました音が気になった。「食べるなら、ポップコーンにしろ」。そうモヤモヤしていたのも束の間、いざ上映が始まると、映画が投げかけてくる問題に吸い込まれる。後席が発する雑音なんぞ、あっという間に気にならなくなっていた。

 まず寄ってきたのは、都会と田舎の距離感。西尾が住んだ宇田濱(三陸を舞台にした架空の町)は、地元民以外の人間は目立ってしまう地方都市だ。住民たちの間では「東京の人間がいる」と、すぐに話題にあがる。そして何かにつけて「これだから東京の人は」と、悪気なく言われてしまう。

 かくいう私も静岡県の田舎町出身、東京在住のひとり暮らし。20代で上京した理由は、都内の出版社で編集者の仕事をしてみたかったからだ。ただ帰省して親戚や友人たちに会うたびに「東京は違うから」「東京はいいよね、なんでもあって」など嫌味なのか、羨望なのか、判断のつかない言葉のシャワーを浴びることになる。ちなみにこれは今も続く。

「俺はただこの街に生まれなかっただけ!」

 西尾は宇田濱の住人との距離感をこう言っていた。このことは都会と地方、それぞれに住む人が観て何かを感じてほしい。上京した身分だから分かるけれど、今、東京も地方も大差はない。本人が何をしたいのか、どう生きたいのかだけだ。

 地方が舞台とあって、空き家問題も取り上げていた。この問題を市役所で担当しているのが、西尾の大家でもある関野百香(井上真央)だ。とある高齢女性が亡くなり、東京から息子たちがやってくる。当初は全て処分して欲しいと百香に言うものの、実家の思い出を辿るうちにやはり取り壊せないと、前言撤回。これも身につまされる話で、我が実家も高齢の夫婦が住むだけで先々のことは全く決まっていない。築50年以上の木造家屋はおそらくいつか取り壊すしかない。でも“いつか”に踏み込めずにいる。このシーンで目を潤ませながら、少し背中を押されたかもしれない。

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