近代以前のシンプルな生き方を問う。映画『ドリーミン・ワイルド-名もなき家族のうた』評価&考察レビュー

text by 青葉薫

アカデミー賞受賞俳優であるケイシー・アフレックが主演を務める映画『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』が公開中だ。今回は、実在の兄弟デュオ「ドニー&ジョー・エマーソン」が辿った驚くべき実話を描いた本作のレビューをお届け。多角的な視点から作品の魅力に迫る。(文・青葉薫)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

——————————

【著者プロフィール:青葉薫】

横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。

冒頭を彩るリリックのようなダイアローグ

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』
© 2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

 夢はいつの日が実現する――。

 ポップソングのリリックのようなダイアローグとともに物語は始まる。

 主人公は都会で小さな音楽スタジオを経営する中年の男だ。商売は決して順調とは言えない。キャンセルされたスタジオでギターを弾いて歌っている。キーボードの妻と一緒に酒場でライブも行っている。彼は二人の息子の父親でもある。

 夜、眠れないという息子に彼は伝える。

「寝なきゃ夢を見られない」
「夢なんて嫌いだ」息子はそう言って口を尖らせる。
「悪夢は嫌だが夢はいいもんだ」

 夢を見なくちゃ。折れそうな自分自身に言い聞かせるように彼は言葉を紡ぐ。ポップソングのリリックのような言葉を。

 彼はかつて夢を見ていた。

 ポップスターとして聴衆の喝采と目映いライトを浴びる夢を。15歳の少年だった頃の話だ。ギターとピアノを独学で体得し、作詞作曲に取り組んでいた。蝶のように舞うメロディを掴まえるのに夢中になっていた。

「息子の才能を見過ごせなかった」

 父親は彼にギターを、2歳年上の兄にドラムを買い与え、自宅にレコーディングスタジオを作った。彼は兄とデュオを結成。自作の楽曲を次々にレコーディングし、一枚のアルバムを完成させた。

1 2 3 4
error: Content is protected !!