近代以前のシンプルな生き方を問う。映画『ドリーミン・ワイルド-名もなき家族のうた』評価&考察レビュー
text by 青葉薫
アカデミー賞受賞俳優であるケイシー・アフレックが主演を務める映画『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』が公開中だ。今回は、実在の兄弟デュオ「ドニー&ジョー・エマーソン」が辿った驚くべき実話を描いた本作のレビューをお届け。多角的な視点から作品の魅力に迫る。(文・青葉薫)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:青葉薫】
横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。
冒頭を彩るリリックのようなダイアローグ
夢はいつの日が実現する――。
ポップソングのリリックのようなダイアローグとともに物語は始まる。
主人公は都会で小さな音楽スタジオを経営する中年の男だ。商売は決して順調とは言えない。キャンセルされたスタジオでギターを弾いて歌っている。キーボードの妻と一緒に酒場でライブも行っている。彼は二人の息子の父親でもある。
夜、眠れないという息子に彼は伝える。
「寝なきゃ夢を見られない」
「夢なんて嫌いだ」息子はそう言って口を尖らせる。
「悪夢は嫌だが夢はいいもんだ」
夢を見なくちゃ。折れそうな自分自身に言い聞かせるように彼は言葉を紡ぐ。ポップソングのリリックのような言葉を。
彼はかつて夢を見ていた。
ポップスターとして聴衆の喝采と目映いライトを浴びる夢を。15歳の少年だった頃の話だ。ギターとピアノを独学で体得し、作詞作曲に取り組んでいた。蝶のように舞うメロディを掴まえるのに夢中になっていた。
「息子の才能を見過ごせなかった」
父親は彼にギターを、2歳年上の兄にドラムを買い与え、自宅にレコーディングスタジオを作った。彼は兄とデュオを結成。自作の楽曲を次々にレコーディングし、一枚のアルバムを完成させた。