映画『リアル・ペイン~心の旅~』評価&考察レビュー。キーラン・カルキンの表情に心打たれる…観客に突きつけられた問いとは?

text by 島晃一

第40回サンダンス映画祭でウォルド・ソルト脚本賞を受賞。さらには、第97回アカデミー賞において、助演男優賞、脚本賞の2部門でノミネートされている映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』がTOHOシネマズシャンテほか全国で公開中だ。本作の魅力に迫るレビューをお届けする。(文・島晃一)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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【著者プロフィール:島晃一】

映画・音楽ライター、DJ。福島県出身。『キネマ旬報』、『ミュージック・マガジン』、『NiEW』などに寄稿。『菊地成孔の映画関税撤廃』(blueprint)で映画『ムーンライト』のインタビューを担当。J-WAVE「SONAR MUSIC」の映画音楽特集、ラテン音楽特集に出演。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」や『散歩の達人』では、ペデストリアンデッキ特集といった街歩きの企画にも出演、協力。渋谷 TheRoomでクラブイベント「Soul Matters」を主宰している。

各方面から高評価を得るジェシー・アイゼンバーグ監督の2作目

『リアル・ペイン〜心の旅〜』
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『リアル・ペイン~心の旅~』は、ジェシー・アイゼンバーグの長編監督2作目にあたるロードムービーで、アイゼンバーグは監督のみならず主演・脚本・製作もつとめている。同じく製作にエマ・ストーンも参加したこの映画は、第97回アカデミー賞で、アイゼンバーグが脚本賞、キーラン・カルキンが助演男優賞にノミネート。俳優としてキャリアを築いてきたアイゼンバーグが、監督としても確かな評価を得た作品になったと言える。

 本作を撮るきっかけは、アイゼンバーグのポーランド旅行だった。プロダクションノートによれば、叔母がホロコースト前に住んでいた家を訪ねた際、ユダヤ系である自分は何者なのかを考え始めたそうだ。また、「ホロコーストツアー(昼食付き)」というウェブ広告を見かけて複雑な感情を抱いたという。『リアル・ペイン~心の旅~』はそうしたアイゼンバーグのルーツや経験が反映されている。

 ユダヤ系アメリカ人のデヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)と従兄弟のベンジー(キーラン・カルキン)は、数年ぶりに再会し、亡き祖母を偲ぶためにポーランドの史跡を巡るツアーに参加する。ウェブ広告の仕事をし、一児の父であり夫でもある堅実な性格のデヴィッド。定職につかず自由奔放ながらも繊細なベンジー。ツアー客たちと交流し各地をめぐる中、正反対の2人は複雑な感情を募らせる。

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