キャラクターの感情から抽象的なテーマまで表現した音楽の力

Ⓒ2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.
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 ロズのこの感情めいたものが、徐々に豊かかつ複雑になっていく様子、そして自然や動物たちと共存していく様子を、説得力のある演出で見せるのも素晴らしい。

 最初、ロズはいかにもロボット的なステレオタイプな話し方、動きをしている。動物のマネをして、4足歩行で走っていても実に機械的だ。だが、動物たちの言葉を覚え暮らしていくうちに話し方が自然になり、森を駆けめぐるとまるで動物のように見える。表情、特に目の表現もだんだん豊かになっているように思える。さらに、ボディ部分が汚れていき、木が継ぎ足されたその姿は、『野生の島のロズ』というタイトルも納得の出で立ちだ。

 ロズの声を担当したルピタ・ニョンゴが、こうした変化を見事に表現していることにも着目したい。前半はプログラムされたAIのような声の出し方をしていたが、親としての感情や他の動物たちへの共感のようなものが芽生えていくとともに、声もだんだんと肉感的になっていく。その移り変わりがあまりになめらかで驚かされる。

 また、ロズの変化や自然に寄り添うように、音楽で彩っているのも今作の特徴の一つだ。スコアを担当したのは、『グリーンブック』(2018)や『カラーパープル』(2023)の映画音楽で知られる作曲家、ピアニストのクリス・バワーズ。バワーズは大編成のオーケストラをメインとしながらも、時折、電子音を歪ませて、ロズの機械としての側面を強調している。作中で、島に徐々に適応すると共に、感情豊かになっていくと、そうした音の印象は薄くなっていき、壮大なオーケストレーションの音楽が際立っていく。

 また、全体的にパーカッシブな曲が目立つが、これにはサンドボックス・パーカッションという4人グループを起用している。自然の荒々しさや豊かさを表す際によく用いられる民族的な楽器ではなく、ガラス瓶や木の板などを叩くことによって、音に幅を持たせている。ときに荒々しく、ときに機械音のように響くそのパーカッションは、この映画に描かれたテクノロジーと自然の衝突および共存を表しているように思えた。

 人間のように雄弁ではなく言葉数も決して多くはないロズたちの感情を彩り、現代的なアイデアと共に作品のテーマを表現したバワーズのスコアは、本作に必要不可欠だ。アカデミー作曲賞にノミネートされたのも納得の素晴らしい映画音楽になっている。

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