音楽が結ぶ少女と死神の絆

映画『終わりの鳥』
©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTINGCORPORATION 2024

 原題の「Tursday」は主人公のひとりである余命わずかな15歳の少女の名前だ。家族は母親のゾラだけ。友達はいない。静かに死を待つ彼女は身に降り掛かった運命に絶望を感じている。そんなチューズデーの前にある日”命の終わりを告げる鳥”DEATHが舞い降りる。一度は死を受容した誰もが”いよいよ”の瞬間にはそうなるのだろう。「まだ死にたくない」すなわち「生きたい」という本能で足掻き始める。チューズデーは必死のジョークでデスを笑わせ、ゾラが帰宅するまで最期を引き延ばすことに成功する。
 
「お前はユニークだ」

 非情なペシミストが少女に心を開く。「空虚が俺の母親だ」とその出自まで明かす。自分と同じような虚無感を抱えるデスにチューズデーも心を開いていく。
 
 “命を取る者”と“命を取られる者”の心の交流。その象徴として、チューズデーが「名曲よ」とデスに聴かせる楽曲がいい。

「It was a goodday」
 
 ラッパーで俳優のアイス・キューブが人種差別問題の高まりによってLA暴動が起きた1992年に発表したナンバーだ。

「いい日とは悲惨な出来事がなかった日のこと」 

 日々争いが繰り広げられるストリートで生き延びてきた彼は歌う。
 
「知っている、名曲だ」とデスは言う。
 
 描かれてこそいないが、各々に人生において「It was a goodday」に救われた過去があると想像できる。音楽の力が2人を深い絆で結びつける。孤独だった少女に人生の最期に理解し合える友ができるという映画的な救い。相手がよりによって少女の命を奪いに来た死神であるという皮肉さも相まって胸を打たれる。もう少しだけ一緒にいたい。そう思っても口にしないのはそれが叶わぬ願いだと理解している、少女と鳥の切なさが。
 

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