死なない世界が生む異常性

映画『終わりの鳥』
©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTINGCORPORATION 2024

 ある意味、デスも救われたのではないだろうか。友となった少女の命を奪うことに対する逡巡。その隙を突いてゾラは勝利する。わたしたちの想像を遙かに超える、とんでもない暴挙で。
 
 命懸けで自分の命を守ろうとした母の姿も、デスの消失も知らない娘は戻って来たゾラに「今日で死ぬの」と告げる。その言葉をやんわりと否定しながら添い寝するゾラは「今日はもう眠りなさい」とチューズデーの髪をやさしく撫でる。
 

 また朝を迎えられたことは、死を覚悟していたチューズデーにとってどれほどの救いになったことだろう。しかし、その代償は余りにも大きい。デスの消失により、死ぬはずだった人たちが死ななくなって世界は大混乱に陥る。〈誰も死なない世界〉。一見、ユートピアに思えるその世界を、監督は想像を絶するディストピアとして描写する。
 
「誰も死から逃れることはできない」

 デスの言葉が改めてわたしたちに重くのし掛かる。〈誰も死なない世界〉の異常性を描くことで、〈誰も死から逃れられない世界〉の正常性をわたしたちに問い掛けてくる。やがて、誰もが死を受容していく。当事者であるチューズデーが、母親のゾラが、そして、〈終わりの鳥〉という役目を背負っているデスが。それぞれが逃れられない死を受容していく物語の結末はぜひ劇場で確かめて欲しい。
 

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