監督が抱える悲しみと希望

映画『終わりの鳥』
©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTINGCORPORATION 2024

 しかしながら、どうしても受け入れられないしこりが残る。それは、子が親より先に逝くことだ。日本でも親より先に死ぬことが最大の親不孝と言われてきた。早逝した子どもはすぐに三途の川を渡らせて貰えず、鬼に石積みをさせられるという言い伝えまである。
 
 にもかかわらず、世界では今日も貧困や適切な医療を受けられないことで多くの子どもたちが命を落としている。毎年30万人以上の子どもたちが世界中でがんと診断されている。そのうち10人に8人は中低所得国に住んでおり、多くの場合、生存率は20%近く。小児がんの治癒率が80%を越える先進国との間に際立った格差がある。
 

 死を迎えた人間の前に舞い降りる一羽の赤い鳥。喋って歌って変幻自在な〈終わりの鳥〉が、子どもの前では、わたしたちの社会が生んだ病理にすら思える。
 
 子に先立たれて悲しい思いをする人がいなくなって欲しいと強く願った。理想論かもしれないけれど、「誰も死から逃れられない」なんて、子どもにだけは言わせたくない。
 
 こういう映画を作らなければ救われない悲しみを抱えた監督のような人が、ひとりでもいなくなるよう社会を変えていかなければならない。そう痛感した。
 
(文・青葉薫)

 

【作品情報】

『終わりの鳥』

出演:ジュリア・ルイス=ドレイファス、ローラ・ペティクルー

監督・脚本:ダイナ・O・プスィッチ(初長編監督作品)

原題:TUESDAY/2024年/英=米/110分/シネマスコープ/5.1ch/字幕翻訳:佐藤恵子
映倫区分:G
配給:ハピネットファントム・スタジオ

©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024

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【了】

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