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映画『エッフェル塔 創造者の愛』忖度なしガチレビュー。”史上最も壮大な設計”に挑む【あらすじ 考察 解説 キャスト】

text by 柴田悠

世界で最も有名な観光名所の一つにして、芸術の都・パリのシンボル「エッフェル塔」。その制作秘話を描いた映画『エッフェル塔 創造者の愛』が全国の映画館で公開中だ。”史上最も壮大な設計”に挑むのは、天才建築技師、ギュスターヴ・エッフェル。今回は、史実を基に制作された本作のレビューをお届けする。(文・柴田悠)

「史実を基に自由に作った物語」
「鉄の魔術師」ギュスターヴ・エッフェルの人生を描く

© 2021 VVZ Production Pathé Films Constantin Film Produktion M6 Films

フランス・パリのシンボルであるエッフェル塔。本作は、そんなエッフェル塔の設計者であるギュスターヴ・エッフェルと、エッフェル塔建設の偉業の裏に隠された女性への知られざる愛を描いたヒューマン・ラブストーリーである。

エッフェルを演じるのは、フランスリメイク版の『キャメラを止めるな!』や、『真夜中のピアニスト』『タイピスト!』のロマン・デュリス。相手役のアドリエンヌには『ナイル殺人事件』のエマ・マッキー。監督はヨーロッパ映画最大規模の超大作『三銃士』(2023年公開予定)の映画化二部作に抜擢されたマルタン・ブルブロンが務める。

アメリカ独立100周年を記念した「自由の女神像」の設計など、数々の名声を獲得したギュスターヴ・エッフェルは、「パリ万国博覧会」のシンボルモニュメントの制作を政府から依頼を受ける。当初は実用的な地下鉄の設計に興味を持っていたギュスターヴだったが、かつての恋人で友人の妻であるアドリエンヌから「野心作を」という言葉を持ちかけられ、エッフェル塔のイメージが一気に膨らみはじめる―。

冒頭でいきなり「史実を基に自由に作った物語」というテロップが表示されることからも分かる通り、本作はあくまで「ギュスターヴ・エッフェルの自伝をもとにしたフィクション」である。加えて、あらすじからも分かるように、本作は「エッフェル塔」をめぐる物語ではなく、あくまで開発者である「エッフェル」をめぐる物語であることも付け加えておきたい。この点「エッフェル塔の開発者たちをめぐる熱いドラマ」が見たい観客にとっては、少し期待外れの作品になってしまうかもしれない。

とはいえ、エッフェルとアドリエンヌをめぐる恋愛ドラマは、それなりにロマンティックに描かれている。とりわけ主人公のエッフェルに扮するロマン・デュリスは、偏屈で直情的ながらまっすぐに自らの愛をぶつける労働者階級出身の男を情熱的に演じている。また、アドリアン役のエマ・マッキーの演技も印象的。特に、自らの愛をエッフェルに拒否された後、思い切って海に飛び込むシーンは、観客の胸を熱くさせる。

また、エッフェル塔の開発に没頭する現在のシーンと、アドリエンヌとの淡い恋を描いた回想シーンを交互に織り交ぜた構成も効果的で、「エッフェルとアドリエンヌはなぜ別れることになったのか」という問いをフックに物語が進んでいくため、観客を飽きさせない。霧がかかったような映像も美しく、夕日のエッフェル塔のてっぺんで二人が会話するシーンも、いささかCG臭くはあるもののなんともロマンティックである。

なお、本作の原案を務めるカロリーヌ・ボングランは、1997年にこの脚本を考案。以来20年余りにわたり、リュック・ベッソンやオリヴィエ・ダハンらさまざまな監督の関心を集めつづけた。そして2021年、エッフェルの没後100年となることも記念し、満を持して映画化されるに至ったという。

さて本作ではエッフェル塔完成に挑む姿が描かれたエッフェルだが、彼が生涯で手掛けた建築物は実は世界各地でみられる。ヨーロッパでは、1877年の開通当時に世界最長のスパン橋梁を誇ったとされるポルトガルの「マリア・ピア橋」、そしてアメリカでは、世界遺産でもある「自由の女神」。さらにベトナムでは、当時は駅舎だったパリのオルセー美術館をモデルにしたと言われる「サイゴン中央郵便局」。ほかにも、ペルー南部の「タクナ大聖堂」やアメリカ大陸初のプレハブ住宅「鉄の家」などがあり、その多くが今なお現役で使用されているというから驚きである。

世界中を股にかけて活躍した「鉄の魔術師」ギュスターヴ・エッフェル。この映画を通して彼の人生に思いを馳せてみるのも、また一興だろう。

(文・柴田悠)

3月3日(金)より、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

【作品情報】

監督:マルタン・ブルブロン
脚本:カロリーヌ・ボングラン
出演:ロマン・デュリス、エマ・マッキー、ピエール・ドゥラドンシャン、アレクサンドル・スタイガー、アルマンド・ブーランジェ、ブルーノ・ラファエリ
2021年│フランス・ドイツ・ベルギー│フランス語│108分│カラー│5.1ch│ドルビーデジタル│シネスコ│
原題:EIFFEL│字幕翻訳:橋本裕充│R15
配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ 
公式サイト

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