「幼児死亡率は約30%…」記録映画『子どもの瞳をみつめて』はフィリピンのスラム街を舞台にした衝撃作。忖度なしガチレビュー
フィリピンでNPO法人や学校の設立などの活動を行う瓜生敏彦監督が手掛けたドキュメンタリー映画『子どもの瞳をみつめて』が公開中だ。飢え、病、犯罪に苦しみながら、フィリピンのゴミ集積場「スモーキーバレー」で暮らす子供たちの実態を映し出した、本作のレビューをお届けする。(文・寺島武志)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】
有害物質だらけの貧民窟「スモーキーバレー」の過酷な実態とは
「スモーキーマウンテン」といえば、かつて、首都マニラのスラム街の象徴として、世界的に有名だった。ゴミが集められ、それらが自然発火して、常に煙が燻っていることからつけられた名称だが、その中から換金できそうな廃品を回収して、わずかな日銭を稼ぐスカベンジャーと呼ばれる貧困層が住み着き、さながら貧民窟と化している。ちなみにスカベンジャーとは、動物の死骸を食べる動物たちのことを指す言葉だ。
1980年代後半、各国の批判を浴びたフィリピン政府は国のイメージが損なわれることを理由にゴミ集積場の閉鎖し、そこに住む住民は公共住宅をあてがわれて強制退去させられた。
そして誕生したのが、マニラから約20キロ離れたケソン市郊外パヤタス地区に新たに作られたゴミ集積場が「スモーキーバレー」だ。
その名の通り、前者は“山”であるのに対し、後者は“谷”の形状をしていることから名付けられた。「第二のスモーキーマウンテン」とされるこの場所には、政府にあてがわれた公共住宅の家賃すら払えない貧しい住民が移り住み、苦しい生活を続けている。
そこでは、大人に混じって、子どももゴミ拾いに勤しんでいる。ダイオキシンなど有害物質だらけのゴミ集積場、ゆえに成長期の子どもにとって人体に及ぼす影響は甚大であり、事実、水頭症による様々な障害に苦しみ、過酷な環境によって四肢の成長に悪影響を及ぼしている。
スモーキーバレーには、最盛期には、9万人以上もの住民が暮らしていた。多くは職を求めて農村から首都マニラに流入してきたものの、思うように職を見つけられず、スカベンジャーとして、微々たる収入で命をつないでいる。
2000年には、ゴミの山が崩落し、約500軒のバラックが下敷きとなった。公式に確認された死者は234人と発表されたが、実際の犠牲者は800人以上ともいわれている。急斜面のゴミの山に、台風によって1週間以上も雨が降り続いたことが原因で起きた悲劇である。
4、5歳ぐらいの幼い子がゴミ拾いをすることも珍しくなく、自分が生きるため、そして、家庭の生計を助けるために、学校にも通わずに自らの健康や教育機会を犠牲にしているのだ。