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映画『すべてうまくいきますように』は面白い? 忖度なしガチレビュー。メインテーマは“安楽死”【あらすじ 考察 解説】

text by 柴田悠

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した、フランス映画界の名匠フランソワ・オゾン監督が製作した映画『すべてうまくいきますように』が絶賛公開中だ。今回は、世界で注目を浴びている”安楽死”をテーマに据えた、センシティブだがユーモアに富んだ同作のレビューをお届けする。(文・柴田悠)

大切な家族との別れが「安楽死」だったら?
名匠フランソワ・オゾンが涙とユーモアで描く家族の風景

© 2020 MANDARIN PRODUCTION FOZ France 2 CINEMA PLAYTIME PRODUCTION SCOPE PICTURES

急速に進む高齢化と医療の発達による寿命の延伸に伴い、世界的な注目を集めている「安楽死」。最近では、あの巨匠ジャン・リュック・ゴダールが自らの意思で死を選んだことも記憶に新しい。

人間には誰しも「生きる権利」が認められている。しかし、人間らしく生きられないのであれば「死ぬ権利」だって認めてもいいのではないか…。そんなシビアでセンシティブな難題を扱ったのが、映画『すべてうまくいきますように』である。

© 2020 MANDARIN PRODUCTION FOZ France 2 CINEMA PLAYTIME PRODUCTION SCOPE PICTURES

監督はフランソワ・オゾン。『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した、フランス映画界を代表する名匠である。また、原作は『スイミング・プール』で脚本を担当するなどオゾンと深い関わりのあるエマニュエル・ベルンエイムの自伝的小説で、安楽死を望む父と娘たちの最後の日々を情感たっぷりに描いている。

主役のエマニュエルを演じるのはソフィー・マルソー。1980年公開の『ラ・ブーム』の世界的ヒットでスーパーアイドルとなり、ハリウッドにも進出したフランスの国民的女優である。また、父・アンドレ役は、『愛を引く女』や『恋するシャンソン』でセザール賞に輝いたフランス映画界の重鎮アンドレ・デュソリエが演じる。

© 2020 MANDARIN PRODUCTION FOZ France 2 CINEMA PLAYTIME PRODUCTION SCOPE PICTURES

小説家のエマニュエルはある日、85歳の父・アンドレが脳卒中で倒れたとの知らせを受け、病院へ駆けつける。父は奇跡的に意識を取り戻すが、体の自由がきかなくなったという現実を受け入れられず、娘であるエマニュエルに人生を終わらせてほしいと頼み込む。父の言葉にショックを隠しきれないエマニュエルだが、どんな言葉をかけても彼の気が変わることはない。エマニュエルは妹のパスカルと協力し合い、父の気が変わることを望みながらも合法的に安楽死を支援しているスイスの協会とコンタクトをとりはじめる。

さて、ここまであらすじを読んだ読者なら、なんと、シリアスなドラマなんだろう、と思わず眉をひそめることだろう。しかし意外なことに、本作からはあまり悲壮感が感じられない。それは安楽死を望む当人である父・アンドレの人柄によるところが大きい。

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