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観念的な美を表現するカメラワークー映像の魅力

映画『ベニスに死す』
映画ベニスに死すGetty Images

本作に登場する美は、アンドレセンだけではない。

朝焼けの海辺や豪奢な内装のホテル、そしてベニスの美しい街並みといったように、美しい映像で満ちあふれている。

とりわけ注目は、ラストの砂浜のシーンだろう。死に瀕したアッシェンバッハが椅子に座してタジオを眺めるこのシーンでは、恍惚とした表情のアッシェンバッハと、彼の目を通したタジオの姿が交互にクロスカットされる。

ベニスの海の煌めきとその中で戯れるタジオが重なるこの主観カットは、自然美を尊ぶ本作のコンセプトを端的に表したカットになっている。

また、ベニスの街の全景を捉えた後にアッシェンバッハの顔のアップに収斂していくといったように、浮遊するようなカメラワークが多く、特定の被写体を捉えるよりもベニスの街全体の雰囲気を留めたいというヴィスコンティの意向が垣間見える。

あるいは、こういった陶酔するようなカメラワークには、美という観念的なものを捉えることのとりとめのなさが表れているとも言えるのかもしれない。

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