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生身の「揺らぎ」を撮る。石井裕也監督『本心』の映画的野心とは? 池松壮亮主演作を徹底考察&評価レビュー

text by 青葉薫

平野啓一郎の同名小説を原作に、『月』(2023)、『愛にイナズマ』(2023)の石井裕也監督がメガホンをとった映画『本心』が全国の劇場で公開中だ。主演を務めるのは、池松壮亮。三吉彩花、水上恒司、仲野太賀ら豪華キャストが脇を固める本作の魅力に迫るレビューをお届けする。(文・青葉薫)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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【著者プロフィール:青葉薫】

横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。

平野啓一郎の原作が予見していた未来

(C)2024 映画『本心』製作委員会
(C)2024 映画『本心』製作委員会

 愛する人の死――中でも「自死」を周囲の人間はどう受容していくのか。哲学。宗教。文学。心理学。多方面で問い続けられてきたテーマのひとつだ。とりわけ日本では毎年2万人以上が自殺によって亡くなっている。自殺をタブーとする何らかの宗教に人口の半数以上が入信していないのも理由とされてきたが、近年、経済と政治によって「格差の拡大」と「弱者を切り捨てる社会」に突き進んでいることも大きい。

 愛する人が自殺したとき、遺された者は迷子になる。夕暮れの雑踏で母親の姿を見失った子どものように茫然自失に陥る。「なぜ?」という疑問符が全身を逆流する。止めることはできなかったのか。あるいは自分にも原因があったのではないかと自責の念に駆られたりもする。

 そして、その「本心」を知りたいと強く願う。

 石井裕也監督・脚本による「本心」は母親に自殺された青年の物語だ。原作はコロナ禍に新聞連載された平野啓一郎の同名小説。2024年に映画化されたことで平野氏の小説がアフターコロナの社会が抱える様々な課題を愕くほど的確に予見していたことが改めて浮き彫りになっているのも見どころのひとつだ。

 そのひとつめが「死の自己決定」にまつわる問題だ。

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