1980年代最高の日本映画は? 今こそ観るべき過激な名作(4)仲間が暴力団に誘拐…映画史に残る奇跡の長回し
1970年代、日本映画は深刻な興行不振に直面し、長らく続いたスタジオシステムが崩壊。日本映画全体は停滞期に入る。そんな状況下で迎えた1980年代は、若手監督の登場やベテランの復活、レンタルビデオの普及によって映画の楽しみ方に変化が訪れた。今回は、そんな80年代を代表する日本映画を5本紹介する。第4回。(文・村松健太郎)
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映画史に名を刻む奇跡の長回し
『ションベンライダー』(1983)
監督:相米慎二
脚本:西岡琢也、チエコ・シュレイダー
出演:藤竜也、河合美智子、永瀬正敏、坂上忍
【注目ポイント】
薬師丸ひろ子主演の『翔んだカップル』(1980)で長編映画監督としてのキャリアをスタートさせ、続く『セーラー服と機関銃』(1981)で興行的成功を収めた相米慎二が、1983年に発表した作品が本作である。
本作は、暴力団の抗争に巻き込まれていく中学生たちの姿を描いた異色の青春映画である。ガキ大将のデブナガに日頃からいじめられていたジョジョ(永瀬正敏)、辞書(坂上忍)、ブルース(河合美智子)の3人の中学生は、ある日ついに反撃を決意する。しかしその直後、彼らの目の前でデブナガが暴力団によって誘拐されてしまう。
物語は、デブナガを救い出そうとする3人の中学生と、薬物中毒者であり世捨て人然とした中年のヤクザ・厳兵(藤竜也)との出会いによって思わぬ方向へと進んでいく。
相米慎二作品といえば、いつ終わるとも知れない、映画表現の限界に挑戦するような「長回し」が特徴的だが、本作ではその最も過激な実践が行われている。とりわけ、無数の木片が浮かんだ貯木池を舞台に、拳銃を持った複数のヤクザと少年たちが追いかけっこを繰り広げる場面は、日本映画史に残る名シーンとして語り継がれている。
本作の後、相米慎二は長谷川和彦や根岸吉太郎らが中心となって立ち上げた、当時の若手映画監督9人による映画企画・制作会社「ディレクターズ・カンパニー」に参加し、1985年には『台風クラブ』を発表。その後も『お引越し』(1993)、『あ、春』(1998)、『風花』(2000)と意欲的に作品を発表し続けた。
しかし、2001年秋、肺癌により53歳の若さで逝去。その早すぎる死は、映画業界関係者や多くの映画ファンに大きな衝撃と喪失感を与えた。相米慎二は、繊細な人物描写と独自の演出スタイルで、日本映画史に確かな足跡を残した監督である。
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