統合失調症の姉と、彼女を自宅に閉じ込めた両親にカメラを向ける。ドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』解説レビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭(2023)で上映され、大きな話題を集めたドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』が公開中だ。統合失調症の症状が現れた姉と、彼女を精神科の受診から遠ざけた両親を、弟である藤野知明監督が記録していく本作。作品の深部に迫るレビューをお届けする。(文・青葉薫)【あらすじ、解説、考察、評価】
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【著者プロフィール:青葉薫】
横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。
統合失調症になった姉をめぐる「家族との対話」の記録
「どうすればよかったか?」
面倒見がよく優秀な姉に統合失調症の症状が現れた。父と母は玄関に南京錠をかけ、彼女を閉じ込めた―。
公開前から迫真のセルフドキュメンタリーとして話題の『どうすればよかったか?』。8つ年上の姉が発症したと思われる日から18年後、東京で映像制作を学んだ藤野知明さんが20年以上に渡りカメラを通して重ねてきた「家族との対話」の記録である。それは、ドキュメンタリーと一括りにするのが躊躇われるほど、重く苦しい。
冒頭で「この映像は姉が統合失調症を発症した理由を究明することを目的にはしていません。統合失調症とはどんな病気なのかを説明することも目的ではありません」と明示されている。
本作には医学監修が入っていない。姉に関しても「症状が現れた」と表現されているだけで医師による診断も観客には明示されない。それは両親の一存で姉が適切な医学的治療から遠ざけられていたことの裏返しとも言えるが、同時に統合失調症に対して誤解を生むような不適切な表現も数多く内在しているのかもしれない。
わたし自身、統合失調症がどのような疾患なのか正しく理解しているとは言い難い。精神疾患に関して理解せずに言葉を紡ぐのはとても危険だ。しかしながら正しく理解させて貰えなかった人たちがいたこともまた事実である。この文章は映画同様それがどういうことかを伝えるために書かれている。疾患に対する誤解を生むような表現が散見されるかもしれないが、そこに差別や偏見の意志は微塵もないことを前提としておきたい。