『海に眠るダイヤモンド』を傑作たらしめた要因とは? 神木隆之介の立ち姿に骨抜きにされたワケ。最終話レビュー
神木隆之介主演の日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』。本作は、1955年からの石炭産業で躍進した長崎県・端島と、現代の東京を舞台にした70年にわたる愛と友情、そして家族の壮大なヒューマンラブエンターテインメント。さっそく、最終話の感想レビューをお届けする。(文・野原まりこ)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
幸せな気持ちに包まれた圧巻のラストシーン
最終回の余韻が冷めやらない。何やらすごいものを見てしまったようだが、今の感情を一言で表すのが難しい…。それほど本作を愛している。
TBSの日曜劇場枠で、数々のヒット作を生み出した脚本家・野木亜紀子の書き上げたオリジナルストーリーと、豪華俳優陣のキャスティングで、放送前からその期待値は上がりきっていた。にも関わらず、本作のエンディングはその高すぎるハードルを軽々と飛び越えてきたのだ。
本作がここまで視聴者を引き込んだ要因は、先の読めない展開と、登場人物の深い心理描写、そしてそれを体現する俳優たちに心を奪われたことに他ならない。
いづみ(宮本信子)の正体や、現代に生きる人々が端島の人の誰なのか、そして鉄平(神木隆之介)とそっくりな玲央(神木隆之介)の血縁関係の有無。過去と現在を結び、単なる歴史ドラマとして終わらない仕掛けに、毎週ワクワクさせられた。
個人的には神木隆之介の、主人公としての立ち姿に心が震えた。玲央を演じているときは少し闇を含んだ目元が印象的だった一方で、鉄平でいるときは底抜けの明るさと男らしさのバランスに骨抜きにされた。そして朝子を思う純粋さに嘘がなかったからこそ、時を超えたラブストーリーが成立したのだと感じる。
そして端島で暮らす人々の人間関係は、窮屈だけどその分、内に籠る熱はあつい。土屋太鳳演じる百合子の葛藤と心の動きや、斎藤工演じる進平と池田エライザ演じるリナの秘密に、こちらまで息が詰まりそうであった。
緑山スタジオに建てられたという鉱員住宅を再現したセットや、そこに住む人々のイキイキとした姿は、ドラマを見ているという感じがしない。ふと、自分も端島で暮らしていたかのような不思議な感覚に陥ってしまう。炭鉱を掘る重労働の疲労や、人ごみの喧騒も、なぜか自分の記憶のようにリアルに感じてしまうのは、それほど本作が精巧に作られていたからだろう…。
そして、最終回まで謎に包まれていた鉄平の行方と、現代で明かされた真相には、制作チームによる映像の魔法がかかっていた。
それは本作の全てを決定づけたと言っても過言ではないラストシーン。真相が明かされたあと、いづみが朝子と“会う”描写から、離れ離れになっていた鉄平と朝子、端島の人々が集合し、お互いの存在を確かめ合っている。鉄平が朝子にプロポーズした描写には、現代ではすでに亡くなっていた鉄平が、この世で果たせなかった約束を叶えたような、まるで“天国”のような空気感がそこにはあった。それこそが、視聴者がずっと見たかった景色で、全ての答え合わせがされたタイミングだからこそ効いた演出だった。
また、晩年鉄平が暮らしていた長崎の一軒家の庭に植えられた一面のコスモス畑の美しさは、50年もの間、鉄平と朝子が思い合っていた証で、鉄平の心を写した鏡のように鮮やかなピンク色だった。
身も蓋もないことを言えば、いづみと鉄平は実際に再会できたわけでもなく、鉄平は既に亡くなっている。事象だけみれば、全くハッピーエンドではないのに、筆者は視聴を終えて、幸せを感じてたまらなかった。
この感情をどんな言葉で表せばいいのか、まだ正解がわからない。しかし、今はこれ以上ない満足感に包まれている。これが、視聴者がダイヤモンドよりも欲しかったものかもしれない。
(文・野原まりこ)
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