M-1史上最も偉大なコンビは? 放送作家が選ぶ伝説の漫才(1)センスと技術が半端ない…Wボケの切れ味に脱帽
2001年にスタートした、もっとも面白い漫才師を決める大会・M-1グランプリ。幅広い層から注目を集め、今や国民的イベントと呼んでもおかしくないほどの盛り上がりをみせている。今回は若手放送作家が歴代チャンプの中から「M-1史上最高の漫才コンビ」5組をセレクト。それぞれの漫才の魅力を映画にたとえて解説する。第1回。(文・前田知礼)
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笑い飯(M-1グランプリ2010王者)
メンバー:哲夫(ボケ&ツッコミ)西田幸治(ボケ&ツッコミ)
所属:吉本興業
コンビ結成年:2000年
【注目ポイント】
「去年より、センスそのままで技術がアップしてるんですよね」
M-1グランプリ2003、笑い飯の1本目のネタ「奈良県立歴史民俗博物館」を見た松本人志は言った。このセンスこそが笑い飯の武器であり、その武器を丹念に磨き続けて9度目の決勝でチャンピオンとなった。
「みんな知っている・まだ漫才になってない・流行に左右されない」そんな絶妙なラインの設定のおかげで、役に入った瞬間から既にもう面白い。
「博物館にある手が上下する展示物の可動式人形」や「ひよこ屋台に出現する上半身が鶏で下半身が人間の鳥人」、靴を探すいじめられっ子の「ないなーないなー」の響きもどこかおかしい。そこからはWボケWツッコミのスタイルで、代われ代われとボケ数を重ねて、ネタを飛躍させていく。
初期のM-1決勝の舞台はまさに冷えきった荒野。そんな場所を、9年間かけて踏みならし、肥沃な土地に変えた。未来のM-1戦士たちのために「ええ土」を残してくださった、「ミスターM-1」の異名にふさわしい漫才師である。
【ネタ「「奈良県立歴史民俗博物館」」を映画にたとえるなら】
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)
上映時間:113分
製作国:アメリカ
監督:ダグ・リーマン
原作:桜坂洋
キャスト:トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン、ブレンダン・グリーソン
「∞(インフィニティ)」は、M-1グランプリ2003で笑い飯につけられたキャッチコピーである。「∞」は時に「ループ」を笑わす記号として使われる。もしも、笑い飯が何度もM-1決勝に戻ってくるタイムループモノの主人公だったら…。
小説家・桜坂洋のライトノベルをトム・クルーズ主演で映画化した 『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の主人公・ケイジ少佐は、謎の侵略者・ギタイの血液を浴びたことによって、死ぬたびに戦いの前に戻る「タイムループ体質」になってしまう。
ギタイと戦っては倒され戦って倒され、その繰り返しの中で勝利への糸口を掴む。このゲーム的な成長がループモノの醍醐味だ。何度敗れてもまたスーツに身に纏って戦場に降り立つトムの姿は、9年連続で決勝のステージに立った笑い飯の姿と重なる。ギタイのそれのように、M-1で滾らせた血は再び彼らをM-1に挑ませる。
思えば、笑い飯の代名詞である「Wボケ」のシステムもどこかタイムループに似ている。漫才内コントの時間軸はツッコミが入るたびに巻き戻り、新たなボケを繰り出す。ループのたびに爆笑を巻き起こし、その繰り返しの中で巨大なうねりを発生させる。
しかし、タイムループには終わりが訪れる。負傷したケイジ少佐は、輸血によってタイムループ能力を失い、最終決戦に挑む。笑い飯にとってのそれは、ラストイヤーでありM-1終了が告げられた2010年大会だろう。
もうこれ以上ループができない土壇場で繰り出したのは、前年で島田紳助に100点をつけさせた「鳥人」のネタを進化させた、「サンタウロス」や「小銭の神様」のネタだった。無限に思われたループの果てに見つけた勝ち筋で、「優勝」を掴んだのだ。
最後にM-1の煽りVのナレーションのごとく、映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の冒頭、時間軸に戻りたてのケイジ少佐の耳に飛び込んでくるファレウ軍曹の言葉を引用したい。
「運命の一日だ。我々に期待されることはたった一つ、勝つことだ。(中略)激しい戦火の中でこそ、英雄は生み出される。戦場で階級は関係ない。例えそいつが寄生虫みたいなクソ野郎でもな」
【著者プロフィール】
前田 知礼(まえだ とものり)。1998年広島県生まれ。2021年に日本大学芸術学部放送学科を卒業。制作会社での助監督を経て書いたnote「『古畑任三郎vs霜降り明星』の脚本を全部書く」がきっかけで放送作家に。現在はダウ90000、マリマリマリーの構成スタッフとして活動。ドラマ「僕たちの校内放送」(フジテレビ)の脚本や、「推しといつまでも」(MBS)の構成を担当。趣味として、Instagramのストーリーズ機能で映画の感想をまとめている。
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