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『占領都市』を起点にひも解くエンプティショットの映画史。ホロコーストをテーマにしたドキュメンタリー作品を考察レビュー

text by 荻野洋一

『それでも夜は明ける』(2013)のスティーヴ・マックイーン監督が、ナチスドイツの占領下で10万人以上が虐殺されたオランダ最大の都市アムステルダムの忌まわしい過去にカメラを向けたドキュメンタリー映画『占領都市』が公開中だ。細部に着目することで本作の魅力を浮き彫りにする。(文・荻野洋一)【あらすじ、解説、考察、評価】

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【著者プロフィール:荻野洋一】

映画評論家/番組等の構成演出。早稲田大学政経学部卒。映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」で評論デビュー。「キネマ旬報」「リアルサウンド」「現代ビジネス」「NOBODY」「boid マガジン」「映画芸術」などの媒体で映画評を寄稿する。7月末に初の単著『ばらばらとなりし花びらの欠片に捧ぐ』(リトルモア刊)を上梓。この本はなんと600ページ超の大冊となった。

フレデリック・ワイズマン作品との比較で見えてくる特異性

占領都市
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 ジェノサイド(大量虐殺)がエンプティショット(無人ショット)を発明した。その証拠として、アウシュヴィッツをはじめとするナチスのユダヤ人強制収容所を考えてみてほしい。強制収容所を記録した映像は、当然のことながらすべてがエンプティショットである。アラン・レネの短編『夜と霧』には何が写っているのか。あれのすべてがエンプティショットだとはかぎらないと主張することもできる。しかしながら、ミシェル・ブーケによるあの名高いナレーションが『夜と霧』をエンプティショットのみからなる作品だと自己申告しているのだ。

 現在日本で公開中のドキュメンタリー映画『占領都市』はどうだろう。32分の短編である『夜と霧』とは対照的に、ここでは266分という長大な上映時間を浪費することじたいが目的化されている。カメラアイはアムステルダムという低地に作られた美しい大都会に向けられている。市内中に張り巡らされた運河。ボート、路面電車、自転車などの乗り物。高低差のない低地都市ゆえ、自転車用レーンが多く写し出される。

 歩道、広場、アパートメント、バルコニーといった都市の相貌。キッチン、居間、壁の陰影といった屋内の豊かな細部。生き生きとした市民の表情と、パンデミック下での撮影らしくマスク姿の顔、顔、そしてワクチン接種会場――。

 フレデリック・ワイズマンの都市ドキュメンタリーを思わせる豊饒なる大小のイメージが、アトランダムに積み重ねられていく。266分という上映時間もなにやらワイズマンを想起させる。ところが、次の2つの点で『占領都市』がワイズマン映画の豊饒なる人間の営みから最も遠いことがわかってくるだろう。

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