最も恐ろしいマフィア映画は? 史上最高の犯罪映画(4)日常が戦場に変貌…天才作家に影響を与えた稀有な傑作
マフィアというものを狭義に解釈をした場合はイタリアのシチリア島を期限とする犯罪集団のことを指す。元々は地域と民族・国籍によって限定されていた犯罪集団を指していたが、近年ではもっと広義の意味を持つようになっていわゆる犯罪集団全般を指し示す言葉になった。今回は実話を基にしたマフィア映画を5本セレクト。魅力を紹介する。第4回。(文・村松健太郎)
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『ダークナイト』に影響を与えた集団抗争劇の傑作
『ヒート』(1995年)
監督:マイケル・マン
脚本:マイケル・マン
出演者:アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、ヴァル・キルマー、トム・サイズモア、ダイアン・ヴェノーラ、エイミー・ブレネマン、アシュレイ・ジャッド、ジョン・ヴォイト、ミケルティ・ウィリアムソン、ウェス・ステュディ、テッド・レヴィン
【作品内容】
マフィアの存在を描きつつ、彼らと距離を置いた犯罪集団を描いたアクション巨編。
テレビ業界からキャリアをスタートさせ『特捜刑事マイアミ・バイス』が大ヒット。その後『ラスト・オブ・モヒカン』から『インサイダー』、『コラテラル』、そして日本では今年公開された『フェラーリ』まで“漢臭い”映画を撮り続けているマイケル・マンの文句なしの代表作。
実は1989年の自身の監督作品『メイド・イン・L.A.』 のセルフリメイクでもある。
【注目ポイント】
ロバート・デ・ニーロが連続強盗団のリーダーであるニール・マッコーリーを、アル・パチーノが彼を追う市警察ヴィンセント・ハナを演じた。時代を代表する名優の本格共演は当時大きな話題となった。
この二人の名優は相反する立場に居ながら不思議な心のつながりを持っている。とりわけ印象的なシーンは、シカゴのカフェでマッコーリーとハナが偶然の出会い、会話を交わすシーンだろう。互いの心理を探り合うこのシーンは、多くの映画ファンがフェイバリットに挙げる名場面となった。
そしてこの映画、なんと実在する人物をモチーフにしている。
アル・パチーノ演じるヴィンセント・ハナのモデルとなったチャック・アダムソンは、本作で描かれた事件の後に刑事を辞して映画業界にアドバイザーとして入り、マイケル・マンのブレーンとして長きに渡って活躍。マイケル・マンのクライムサスペンスの名作の影にはアダムソンがいたことになる。
また、集団抗争活劇の傑作である本作の演出が、後世の映画作家に与えた影響は大きく、とりわけクリストファー・ノーランは『ダークナイト』の撮影に際して本作を研究したと公言している。
ニール・マッコーリーは独自のグループを持つベテラン且つプロの強盗犯であり、マフィアなどの組織とは絶妙に距離を取る、一匹狼のアウトローである。それゆえにいざとなれば躊躇なく引き金を引く。アメリカは銃社会と言われているとはいえ、本作で描かれるような市街地での大々的な銃撃戦は滅多に起きるものではないだろう。一瞬にして日常が戦場に様変わりする本作のクライマックスは、当時の観客に衝撃を与えた。
このシーンについてはさらに強烈な後日談がある。映画の公開後に武装強盗が発生、犯人グループは警官隊と熾烈な銃撃戦を展開。なんと犯人グループの生き残りは「本作に影響を受けた」といった旨を話したという。後世の映画に影響を与えたのみならず、現実の事件にまで影響を及ぼした本作。映画史に燦然と輝くバイオレンス映画の傑作と言っても過言ではないだろう。
(文・村松健太郎)
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