観終わったあとの余韻がすごい…映画『敵』が映し出した人間の脆さとは? タイトルの意味を徹底考察。評価&解説レビュー

text by 小松加奈

長塚京三主演の映画『敵』が公開中だ。筒井康隆の同名小説を『桐島、部活やめるってよ』『騙し絵の牙』の吉田大八監督が映画化した本作は、昨年開催された第37回東京国際映画祭で主要3冠を受賞した。タイトルである“敵”とは何か? インパクトと余韻を残す本作の魅力を紐解く。(文・小松加奈)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】

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【著者プロフィール:小松加奈】

ライター/編集者。音楽・映画・ドラマ・アニメなどのエンタメ系を中心にインタビュー/レビュー/コラム記事などを手掛ける。フジロックは初年度から参加。プロ野球好き。ジャンルを問わず、心を動かすもの/ことに夢中。

丁寧に暮らす余生に抗えない「敵」が忍び寄る

映画『敵』
ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA

 主人公は、長塚が演じる元大学教授・渡辺儀助77歳。職を辞して10年、妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋に暮らしていた。料理は自分でつくり、晩酌を楽しみ、気の置けないわずかな友人と酒を飲み交わし、時には教え子を招いてディナーを振る舞う―その暮らしぶりは実に丁寧で、特にモノクロの映像からでもおいしさが伝わる食事の描写が、観客の食欲も刺激する。

 淡々と描かれる“凪”のようなつつましい日常生活が何とも心豊かで味わい深い。

 遺言書も書き、やり残したこともなく、預貯金があと何年持つか…自身があと何年生きられるかを計算しながら、来るべき日に向かって完璧に平和に過ごしていた儀助。だがある日、書斎のパソコンの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてきて…。

 繰り返される穏やかな儀助の起床のシーンが、時の経過とともに不穏さを帯びていき、観る人の心をざわつかせた。

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