救いがない…ラストで主人公が非業の死を遂げる日本映画(1)破滅への道をまっしぐら…不思議と胸がすく傑作

text by シモ

映画にはハッピーエンドでラストを飾る作品も多く存在するが、救いようの無い悲しい結末で終える作品もある。そんな作品は、観る者にダメージを与えるが、意外にも心に残るものだったりもする。今回は、主人公が報われないだけでなく、非業の死を遂げてしまう日本映画をセレクト。作品の魅力も併せて紹介する。(文・シモ)

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主人公が奇怪な行動を繰り返す衝撃作

『仁義の墓場』(1976)

渡哲也
渡哲也【Getty Images】

監督:深作欣二
脚本:鴨井達比古
出演者:渡哲也

【作品内容】

昭和21年(1946年)。終戦直後の新宿では、4つのテキ屋組織の縄張り争いが繰り広げられていた。

 300名の組員を従える河田修造(ハナ肇)率いる河田組に所属する石川力夫(渡哲也)はある日、兄弟分の今井幸三郎(梅宮辰夫)、杉浦誠(郷鍈治)を従えて、中野を拠点とするアジア系の愚連隊“山東会”を襲撃。同会を壊滅に追い込み、中野今井組を起こす。

 見境なく暴力をふるう石川を持て余した河田は、彼に池袋親和会の青木政次(今井健二)を殺すように差し向けるが…。

【注目ポイント】

『仁義なき戦い』(1973)の深作欣二監督が、実在のヤクザ・石川力夫の破滅的な生き様と死に様を描いた作品である。

 戦後まもなくの新宿。河田組の一員として鉄砲玉のように生きる石川は、激しい気性の持ち主だ。その激しい気性ゆえに破壊衝動を抑えられない彼は、親のように育てられた組長・河田に反旗を翻し、感情に任せて組長を刃物で刺す暴挙に出る。

 その後石川は、1年6か月もの間、刑務所に入る。河田組からも「10年間の関東出入り禁止」をくらった石川は行き場を失い、身を隠した大阪で薬物中毒になり、かつての兄弟分を射殺し、警察に包囲されたアパートで無差別に発砲するなど、破滅への道をまっしぐらに進んでいく。

 理解しがたい行動をくり返す石川は、かつて自身が刃を向けた河田組長のもとを突然訪れるや、亡き妻・千恵子(多岐川裕美)の骨壺から遺骨を取り出して、眼前でボリボリとむさぼり食いながら、「そろそろ一家を興したい」と、土地と金をねだる…。

 物語は、石川が刑務所の屋上から大きく手を広げて鳥のように飛び立ち、絶命して終わる。

 辞世の句は「大笑い 三十年の馬鹿騒ぎ」。破滅型の主人公にドン引きしながらも、なぜか惹きつけられる。公開から約50年経っても古びない、暴力映画の名作だ。

(文・シモ)

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【了】

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