トラウマ級の怖さ…「依存症」をテーマにした衝撃作は?(3)最悪のトイレに首を突っ込み…幻覚描写がスゴい名作
特定の物質や行動に心を奪われ、やめたくてもやめられない…。ストレスから逃避するため、一度、酒や非合法の薬に頼ってしまうと一生取り返しのつかないことになる。今回は、そんな依存症をテーマにした映画を5本セレクト。作品内容と見どころを解説する。第3回。(文・阿部早苗)
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ドラッグがもたらす感覚の歪みを鮮烈に表現
『トレインスポッティング』(1996)
監督:ダニー・ボイル
キャスト:ユアン・マクレガー、ロバート・カーライル、ジョニー・リー・ミラー、ユエン・ブレムナー、ケヴィン・マクキッド、ケリー・マクドナルド
【作品内容】
スコットランドに暮らすヘロイン中毒のレントンは、仲間たちと無軌道な生活を送っていた。そんな中、レントンは万引きで逮捕されたことを機に更生することを決意し、ロンドンで就職するが…。
【注目ポイント】
1990年代のイギリスのポップカルチャーを象徴する青春映画『トレインスポッティング』。作家アーヴィン・ウェルシュの同名小説を原作に、ダニー・ボイルが監督を務めた作品だ。
舞台はスコットランド・エディンバラ。主人公の マーク・レントン(ユアン・マクレガー) は、友人の スパッド、シック・ボーイ、ベグビーらと共に退廃的な日々を送り、ドラッグに溺れ、犯罪やトラブルを繰り返しながら生きていた。しかし、逮捕を機に一度はドラッグを断ち切ろうとするレントンだったが、再び過去の仲間やドラッグに引き戻され、人生の分岐点に立たされることになる。
コミカルさに加え、ドラッグの怖さを感じるシーンが数多くある本作。ヘロインを入手できないレントンが代わりに下剤を服用してしまう場面では、薬の効果が現れ、公衆トイレへ駆け込むが、運悪くそこは「スコットランドで最悪のトイレ」である。
便器の中へと沈み込んでいくレントンは、水の中を泳ぐが、もちろんこれはドラッグによる幻覚だ。加えて、本作では、ドラッグを断とうとして幻覚に襲われる禁断症状もヴィヴィッドに描かれる。
レントン以外の人物もドラッグによって人生を棒に振る。元々ドラッグと無縁だったレントンの友人トミーは、恋人に振られたことをきっかけにドラッグに依存し、やがてエイズを発症。エイズが原因ではないが、部屋で孤独に死んでいく姿は、ドラッグの本当の恐ろしさを観る者に突きつける。
『トレインスポッティング』は、独特の映像表現や音楽、個性的なキャラクターたちが観る者を惹きつける一方で、薬物依存の恐怖が痛烈に描かれている。公開から年数が経てば経つほど魅力が増す青春映画の傑作であり、薬物依存の怖さをリアルに伝える啓蒙的な側面を持つ作品だと言えるだろう。
(文・阿部早苗)
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