絶望感がスゴい…もっとも憂鬱な日本の恋愛映画は? ビターな名作5選。恋愛のシビアな側面に光を当てた作品をセレクト

text by 村松健太郎

古今東西、恋愛には喜びと悲しみがつきものだ。華やかで心躍るような時間がある一方で、恋破れたときの悲しさは、生涯忘れがたい傷として脳裏に刻まれる。そこで今回は、そんな恋愛の負の側面を描いた邦画を紹介。なお、一部の紹介には結末のネタバレを含むため、お読みいただく際にはくれぐれもご注意いただきたい。(文・村松健太郎)

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【著者プロフィール:村松健太郎】

脳梗塞と付き合いも15年目を越えた映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在各種WEB媒体を中心に記事を執筆。

出会うのが遅すぎた二人の悲しい結末

『失楽園』(1997)

役所広司
役所広司【Getty Images】

監督:森田芳光
脚本:筒井ともみ
原作:渡辺淳一
キャスト:役所広司、黒木瞳、寺尾聰、柴俊夫、中村敦夫、岩崎加根子

【作品内容】

 突然閑職に追いやられた敏腕編集者、久木祥一郎(役所広司)は、カルチャースクールで書道講師をしている松原凛子(黒木瞳)に一目ぼれをする。

 久木の強引なアプローチに仕方なく応じ、逢瀬を重ねる二人。やがて久木は、都内にマンションを借り、愛の巣をつくりはじめる。

【注目ポイント】

 日本経済新聞に連載されたのち、発行部数260万部のベストセラーを記録した渡辺淳一の同名小説を映画化した作品。ヒットメーカーの森田芳光がメガホンを取り、役所広司と黒木瞳がW主演を務めた。

「中年の危機」に陥った主人公が愛慾に溺れていくさまを描いた本作。社会から放逐された2人が、最終的に「死」を選ぶ様子は、多くの観客の胸に刺さり、興行収入で40億円の大ヒットを記録。公開初日は銀座の映画館に数百メートルの長蛇の列ができたという。

 ちなみに、本作のプロデューサーである原正人は、女性観客をターゲットに制作。脚本家に『阿修羅のごとく』(2003)の筒井ともみを起用し、フランス映画『エマニエル夫人』(1974)を参考に美しく文学的な作品を目指したと語っている。

 また、R-15指定の本作は、『エマニエル夫人』に負けずとも劣らない、役所広司と黒木瞳による過激な濡れ場が話題を集めた。ベッドシーンは『家族ゲーム』(1983)を手がけた森田芳光らしいトリッキーかつ妖艶なカメラワークで撮られており、観る者の興奮をかき立てる出来となっている。

 ちなみに、映画が公開された年と同じ1997年には、日本テレビ系列で古谷一行×川島なお美の座組によってドラマ化もされ高視聴率を記録。こちらも過激な濡れ場が話題になり、川島の体当たりの芝居も相まって、地上波での再放送NGと噂されている。

 なお、中年の恋と言えば、同じく渡辺淳一が原作の『愛の流刑地』(2007)についても触れておかなければならない。『失楽園』同様、本作も不倫の恋とその先にある“死”を描いている。こちらも併せてご覧いただきたい。

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