大河ドラマ『べらぼう』第9話考察&感想。小芝風花の職人芸が泣かせる… ”蔦重”との恋を妨害した松葉屋なりの愛情とは?【ネタバレ】

text by 苫とり子

横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)が現在放送中。貸本屋からはじまり「江戸のメディア王」にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く。今回は、第9話の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

——————————

【著者プロフィール:苫とり子】

1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

恋は地獄の始まり

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第9話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第9話 ©NHK

 あまりにも長く、そして短い恋だった。蔦重(横浜流星)と花の井、改め瀬川(小芝風花)の初恋に終止符が打たれたNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第9回。

 蔦重は鳥山検校(市原隼人)が、瀬川を身請けしようとしていることを知る。瀬川は幼い頃からずっと、蔦重だけを思って生きてきた。だが、「どの子もかわいや」で、かつ鈍感な蔦重は瀬川の秘めたる思いに気づく気配もない。

 そんな中で舞い降りてきた、稀に見る“いい男”鳥山検校からの身請け話。瀬川は蔦重への燻り続けている恋心を断ち切るのにちょうどいいと、この話に乗っかろうとしていたのではないか。

 そして、瀬川が身請けされる。ひいては自分の目の前からいなくなってしまうというところまで来て、蔦重は彼女への恋心を自覚するのだ。ここまで20年かかった。正直遅すぎるし、瀬川の辛抱強さにも驚かされる。

 だけど、そんな長年の想いが報われた時の喜びといったら、途轍もないものなのだろう。蔦重の告白に何が起きたかわからないという様子で、瀬川は唇を震わせ、右目から一筋の涙を溢す。

 ずっと幼馴染みであり、親友で家族のような関係でもあった2人は甘い雰囲気になりようがなくて、「心変わりなんてしないだろうね!」「あたりめえだろがよ!俺ゃ、てめえの気持ちに気付くまでに20年かかってんだぞ。心変わりなんか、できっかよ」と、つい喧嘩口調に。それがおかしいやら、嬉しいやら、照れくさいやらで、最後は笑い合う2人があまりにも微笑ましかった。

 瀬川がぐいっと無邪気に涙を拭う姿も印象的だ。客の前なら、きっとこんな風に涙は拭かないだろう。蔦重の前では花魁ではなく、ただ1人の女の子になる。その違いを明白に演じ分ける小芝風花の職人芸には驚かされてばかりだ。

1 2 3 4
error: Content is protected !!