リアルで怖い…実在の犯罪者を演じて大化けした役者は?(4)史上類を見ない残酷さ…殺人が日常と化した男の狂気

text by 阿部早苗

ニュースで報道されるたびに日本社会を震撼させる殺人事件。その犯人たちは、新聞やネットを騒がせるのみならず、しばしば映画やドラマの題材になってきた。そこで今回は、実在の殺人犯を演じた役者を5人セレクト。視聴者の背筋を凍らせた、迫真の芝居の魅力を解説する。第4回。(文・阿部早苗)

ーーーーーーーーーー

人を殺すことが日常になった男の狂気

緒形拳『復讐するは我にあり』(今村昌平監督、1979)

緒形拳
緒形拳【Getty Images】

 日本の犯罪史に残る凶悪事件として語り継がれる「西口彰事件」を題材にした映画『復讐するは我にあり』。欲望のままに殺人を繰り返した連続殺人犯を緒形拳が演じたことで当時話題となった作品だ。

 西口彰事件とは、1963年から1964年にかけて全国を渡り歩きながら詐欺や連続殺人を繰り返した犯罪者。彼は詐欺師としての巧妙な話術と変装技術を駆使し、複数の偽名を使い分けながら逃亡していた。最終的には5人を殺害し、1966年に死刑が執行されている。

 映画では、主人公を西口から榎津に変更し、詐欺や窃盗を繰り返しながら全国を転々とする無頼漢が、金策に困った末に殺人を犯し、そこから次々と凶行を重ねる連続殺人犯へと変貌していく様が描かれている。一方、榎津を追う刑事たちの視点や、彼に翻弄される女性たちの視点も交錯しながら、彼の生い立ちや家族関係にも触れている展開だ。

 時代劇や人情味のある役柄が多かった緒形だが、本作では完全な「悪役」を演じたことで、それまでのイメージを覆すダークな演技が話題となったのは言うまでもない。何の感情もないように見えるその表情は恐ろしく、人を殺すことが日常になった男の狂気を見せつけるのだ。

 この冷酷な犯罪者を演じるにあたり、人間の善悪が入り混じる複雑な心理を表現した緒形は、この作品をきっかけに日本映画界を代表する名優として、不動の地位を確立することに成功した。

(文・阿部早苗)

【関連記事】
リアルで怖い…実在の犯罪者を演じて大化けした役者は?(1)
リアルで怖い…実在の犯罪者を演じて大化けした役者は?(5)
リアルで怖い…実在の犯罪者を演じて大化けした役者は?(全紹介)

【了】

error: Content is protected !!