なぜ『べらぼう』小芝風花の花魁は視聴者を魅了したのか? 徹底解説。謎の多いモデル・瀬川の知られざる真実とは?

text by 西田梨紗

現在放送中の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合、以下『べらぼう』)。江戸の遊郭・吉原を舞台とした本作において飛びぬけた存在感を放っているのが、小芝風花が演じる花魁・花の井(五代目瀬川)だ。今回は、「吉原細見」などの記録に残る「五代目瀬川」を紐解きながら、小芝風花の演技の魅力に迫る。(文・西田梨紗)
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【著者プロフィール:西田梨紗】

アメリカ文学を研究。文学研究をきっかけに、連ドラや大河ドラマの考察記事を執筆している。社会派ドラマの考察が得意。物心ついた頃から天海祐希さんと黒木瞳さんのファン。

五代目瀬川はベールに包まれた女性

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第7話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第7話 ©NHK

『べらぼう』で小芝風花が演じる花の井、改め瀬川は実在した花魁・五代目瀬川がモデルである。「瀬川」とは吉原でトップクラスの格式を誇る妓楼・松葉屋の看板花魁に与えられた名跡で、この名をもつ者は9人いる。

 五代目瀬川は江戸時代中期に男たちを魅了したが、彼女に関しては次の3つを除いてほとんど分かっていない。

 1つ目は蔦屋重三郎が版元として出版した吉原細見「籬の花」(1775)に“瀬川”の名が載っていることだ。また、2つ目として、「青楼美人合姿鏡」(1776)に本を読んでいる彼女を描いた絵が載っていることが挙げられる。

 3つ目は、1775年における盲目の男・鳥山検校による身請けだ。ドラマでは俳優の市原隼人が鳥山を演じている。当時、五代目瀬川の身請けが相当なセンセーションを巻き起こしたらしいことは、戯作者の田螺金魚が「契情買虎之巻」(1778)において二人を題材にしたことからもうかがえる。
 
 しかしながら、なぜ、鳥山検校は現代の価格でいうところ1億円以上もの大金を支払い、吉原のスターを身請けできたのか? 第一に鳥山はお金を高額な利子で貸し、私腹を肥やしていた。加えて、彼は、当道座(男性視覚障害者の自治互助組織)の最上位の官位(検校)に就き、優遇されていたのだった。ダーティな方法で手にした金と自身の境遇を利用して得た地位が、吉原のスターの身請けを可能にしたのだ。

 鳥山検校の極悪な貸付は自らの破滅を招き、五代目瀬川を身請けした3年後に不法貸付の罪で取り締まられている。鳥山が没落した後の五代目瀬川の足取りは不明だ。再婚し、子どもを授かったともいわれているが噂にすぎない。

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