日本映画史上もっとも面白い「創作」をテーマにした作品は?(1) 素晴らしいの一言…歴史を変えた傑作は?

text by 田中稲

作品を生み出すプロセスと職人の情熱が描かれる映画は、まるで社会見学。普段は何気なく見ている作品が、実は気が遠くなるような作業と努力と工夫によって生まれている。それを知れば、世界はもっと愛おしくなり、自分も何か作りたくなる。今回は、様々なジャンルの「創造の現場」をテーマにしたモノづくり映画を5本ご紹介。(文・田中稲)

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【著者プロフィール:田中稲】

ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。

時代劇と「斬られ役」のテクニックに見惚れる

『侍タイムスリッパー』(2024)

山口馬木也
山口馬木也 写真:武馬怜子

監督・脚本:安田淳一
キャスト:山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎、庄野﨑謙、紅萬子、福田善晴、井上肇、田村ツトム

【作品内容】

 幕末の京都、長州藩士を討つ密命を受けた会津藩士・高坂新左衛門(山口馬木也)は、刀を交えた瞬間、落雷によって気絶してしまう。目が覚めると、そこは現代の時代劇撮影所。タイムスリップした新左衛門は、「斬られ役」として、第二の人生を送ることになる。

【注目ポイント】

 日本アカデミー賞の歴史を変えた! 数あるメジャーの大作映画を押さえ、最優秀作品賞と最優秀編集賞を受賞。いやもう、納得、納得の2時間11分。

 時代劇で斬られ役をする侍たちは、過去(江戸時代)と向き合う。トラウマや敵と「ドラマ」で対峙し、何度も死に、何度も生き返る。そして言うのだ。

「今という時代を精一杯生きねばな」

 タイムスリップの穴が京都太秦撮影所にある、という設定の説得力よ。数多の時代劇を生み出したあの場所に、時間軸の歪みが生じてもおかしくない。

 山口馬木也演じる高坂新左衛門が役者として成長するプロセスに、時代劇の素晴らしさ、殺陣の難しさが詰め込まれている。

 殺陣師・関本(峰蘭太郎)がつける「斬られ稽古」のシーンに、何気なく見ていたチャンバラの見方が変わる。鬼の段取りとテクニックを踏まえて出来上がる、一つの芸術なのだ…!

 2011年、長寿ドラマ『水戸黄門』(TBS系)が終了したタイミングに、時代劇の衰退が大きくニュースになったことを覚えている。あれから10年以上たった今、まだ、その灯はある。

 この文化を、歴史を途絶えさせてはいけない。10名足らずのロケ隊で作った自主映画が、改めて世界に「時代劇の意義」を拡散させた。必見!

(文・田中稲)

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【了】

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