犬の“さくら”の演技がスゴい…原作との比較にみる映画版ならではの魅力とは? 映画『少年と犬』考察&評価レビュー
『春に散る』(2023)の瀬々敬久監督最新作『少年と犬』が全国の映画館で公開中だ。主演を務めるのは若手屈指の演技派・高橋文哉。共演は元乃木坂46の西野七瀬。馳星周のベストセラーを原作にした本作の魅力を解説する。【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】(文・ばやし)
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【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
映画を彩る懐かしい音楽たち
どうしようもない現実に希望を見出せない人々の前に現れた一匹の犬が、傷つく彼らを光があたる場所に連れていく。映画『少年と犬』は、その旅の年月を雄大な自然とともに映し出した作品だ。
原作となったのは、第163回直木賞を受賞した馳星周の連作短編集。岩手から熊本までの果てしない道のりを駆け抜けた孤高の犬と、かけがえのないひとときを過ごした人々が再生していく様子を描いた7つのエピソードが収録されている。
そんな作品の映画化に際して、制作陣に名を連ねたのは、監督の瀬々敬久、脚本家の林民夫、そして、プロデューサーの平野隆。映画『系』(2020)、『ラーゲリより愛を込めて』(2022)など、秀逸な人間ドラマを手がけてきた3人が再び集結した記念すべき作品となっている。
震災の爪痕が深く刻まれた東北の状況や、地震によって心に癒えることのない傷を負った人々が描かれる物語であることもあり、瀬々監督はできるだけ敷居を下げて、ひとりでも多くの人に届くようにストーリーを組み直したという。
実際、異なる環境に置かれた老若男女の静謐な人間ドラマが紡がれる原作小説に対して、映画ではポップな音楽が要所で流れていたり、主要な登場人物がフォーカスされるように設定を変えていたり、随所でアレンジが施されている。
とりわけ、back numberの「スーパースターになったら」(2011年)やAKB48の「ヘビーローテーション」(2011年)など、当時を思い出させる懐かしい音楽たちは軽妙な味わいをもたらし、シリアスな物語を中和しているように感じた。