闇が深すぎる…史上最も恐ろしい“ヒトコワ”海外映画(1)少年が家族を侵食していく…背筋が凍る究極の選択は?
チャッキーにジグソウ、そして貞子ー。ホラー映画はこれまで世にも恐ろしい「スター」たちを多数輩出してきた。しかし、怖いのは何も妖怪や幽霊だけではない。隣に住むあの人も、突然「モンスター」に変貌するかもしれないのだ。そこで今回は身近に潜む人間の恐怖を描いた「ヒトコワ映画」5本をセレクト。海外発の傑作スリラーを紹介する。第1回。(文・ニャンコ)
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運命の不条理を描いた現代の神話
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017)
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ
キャスト:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン、ラフィー・キャシディ、サニー・スリッチ
【作品内容】
心臓外科医のスティーブン(コリン・ファレル)は、妻アナ(ニコール・キッドマン)と二人の子供とともに裕福な生活を送っていた。
しかし、スティーブンには秘密があった。それは、過去に医療事故で死なせてしまった患者の息子マーティン(バリー・コーガン)に、高価なプレゼントを送っているということだった。
ある日、スティーブンはマーティンを自宅に招き家族に紹介する。しかし、その日以来、家族に奇妙な出来事が起こりはじめる。
【注目ポイント】
『哀れなるものたち』(2023)で知られるヨルゴス・ランティモスによる、倫理と運命の交錯を描く異色の心理スリラー。第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞するなど、大きな注目を集めた。
寓話的かつ不条理な語り口で観客を精神的な迷宮へと引き込むランティモス。本作では、ギリシャ神話のイピゲネイアの犠牲(トロイア戦争のギリシャ軍指揮官アガメムノンが女神アルテミスの怒りを鎮めるため娘を捧げる物語)を下敷きに、スティーブン家の「贖い」を描いている。
特筆すべきは、家族を悲劇に陥れる少年マーティンを演じるバリー・コーガンの不穏な存在感だろう。光なき眼で家族に迫り、一家を侵食していく様子には、思わず背筋が凍ってしまう。また、家族を守るために誰かを犠牲にしなければならないという「究極の選択」を描いたシナリオも、観客に倫理的ジレンマを突きつける。
静謐でありながら、強烈な暴力的体験を描いた本作。多くの観客の心に残ることまちがいないだろう。
(文・ニャンコ)
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【了】