「自分が時代劇を繋いでいく人に」映画『陽が落ちる』柿崎ゆうじ監督、単独インタビュー。”武士”を女性の視点で描いたワケ
舞台は文政12年の江戸。切腹を命じられた武士と、その家族の一夜の物語を描いた完全オリジナル時代劇、映画『陽が落ちる』が現在絶賛公開中だ。本作にて、脚本・監督を務めた柿崎ゆうじさんにインタビューを敢行。製作の裏側や演出法など、様々なお話を伺った。(取材・文:福田桃奈)
「時代劇を繋いでいく人に」
日本の文化を後世にも残していく
ーーー役者のみなさんの演技が真に迫っていて素晴らしく、登場人物たちの境遇にとても心が痛みました。まず企画の成り立ちから教えてください。
「10年くらい前に短編映画を撮ったのですが、映画祭に出展するためには40分という制限があったので、本来やりたかった内容をだいぶカットしたんです。今回長編をやるにあたり、短編では描ききれなかったことをやりたいというのが1つ。もう1つは、日本の文化である時代劇が10年前に比べて減ってきていて、やる人が少なくなったということに非常に危機感を持っていたので、自分が時代劇を繋いでいく人になりたいと思いました」
ーーー今回は、女性が主人公です。本作ではどちらかというと、女性の方が武士のように強い人間で、男性の方が頼りなく”死”に対して恐怖心を抱いています。短編映画の段階で、このようなキャラクター設定でしたか?
「最初は、明確に女性を主人公で描こうと切り分けていたわけではなく、あくまでも夫婦が主人公という中で、どちらに重きを置いて表現するかだけだったんです。ただ自分も男ですし、男性目線で描いた方がより理解度が高く表現できると思っていたんですけど、2人に演じてもらったら、女性目線で描いた方が物語としてもいいと思いましたし、これまで自分が観てきた時代劇にはなかった視点だと思ったので、女性を主人公にしようと思いました」
ーーー主人公が男性から女性になったことで、どのように変化しましたか?
「当時の女性は常に男性より一歩下がっていなければいけない時代だったので、言いたいことがあっても何も言わない“間”があったと思うんです。なので演出面で“間”を多く取るようにしました」
ーーー時代劇を書くにあたり、参考にされた史実などありましたか?
「様々な文献や資料を見たんですけど、特に参考にしたのは、幕末にいたドイツ人医師が書いた手記があり、かなり克明に記録されているんですね。日本人だと切腹というものに対して先入観が強すぎるのですが、私見なくあるがままに書かれていたので、客観的に見たらこれが1番正しいかもしれないなと」
ーーーいわゆる外から見た視点で書かれていたと。
「そうです。どうしても侍の切腹というと、死生観が大事にされ、肝心なところをオブラートに包んでいることが多いんです。様々な記録を読むと作法もまちまちで、基本的には庭など屋外で切腹するのが当たり前だけど、実は屋内で行われることもあったということや、罪人と武士の自死と、切腹が混同しているものもありました。その中でドイツ人医師が書いた記録が1番信憑性が高く感じられました」