史上最恐の「日本のヤバい村」映画は? おぞましい怪作(5)田舎でスローライフのはずが地獄に…集団心理が怖い

text by 阿部早苗

日本映画には、村を舞台に、見過ごされがちな社会の不正や陰湿な風習、閉鎖的なコミュニティが引き起こす恐怖を描き出した「村系ホラー」というジャンルの作品がある。今回は、そんな「ヤバい村」を舞台にした映画をセレクト。異質な空間に潜む人間ドラマを紐解きながら、5本紹介する。第5回。(文・阿部早苗)

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集団心理が引き起こす村八分の恐怖

『嗤う蟲』(2025)

若葉竜也 写真:武馬怜子
若葉竜也 写真:武馬怜子

監督:城定秀夫
脚本:内藤瑛亮、城定秀夫
出演者:深川麻衣、若葉竜也、松浦祐也、片岡礼子、中山功太、杉田かおる、田口トモロヲ

【作品内容】

 イラストレーターの杏奈(深川麻衣)と脱サラした夫・輝道(若葉竜也)は麻宮村へ移住する。過干渉な村民に戸惑いつつも田舎暮らしを楽しんでいた2人だったが、自治会長・田久保夫婦の存在や、村民に違和感を抱くようになる。やがて田久保に弱みを握られた輝道は、ある仕事を手伝うことによって村に隠された「掟」の存在を知ってしまう。

【注目ポイント】

『ビリーバーズ』(2022)の城定秀夫と『ミスミソウ』(2018)の内藤瑛亮がタッグを組み日本各地で実在する「村の掟」の数々をリアルに描いた本作。乃木坂46の元メンバー深川麻衣と若葉竜也が夫婦役で共演した作品だ。

 田舎でのスローライフを夢見て、都会から麻宮村に移住した杏奈と輝道。笑顔で迎え入れてくれた村民たちに安堵したのも束の間、自治会長・田久保夫婦や村民たちの過干渉に困惑する。さらに、村民たちは田久保を盲信しており、彼の意に背く者は総スカンを食らうという異様な空気に、次第に不信感を抱くようになる。

 この村のヤバイところは、村が田久保の支配下にあり村民は誰一人として逆らえず、逆らう者を許さない絶対的な権力を持っている。村の警察までも田久保に弱みを握られ犯罪に加担しているのだ。

 子作りまで干渉し、妊娠したら「ありがっさま」と感謝される一方で、子供が産めない夫婦は役立たずと罵られ、村八分にされる。

 しかし、これ以上にヤバいのが、この村には外部の人間には決して抗えない禍々しい「掟」の存在である。ネタバレに配慮して詳述は避けるが、その掟はとある栽培に関わるものだ。弱みを握られた輝道は家族を守るために、この掟に身を捧げることになる。

 村の秩序を保つために存在する掟は、村社会に潜む闇を象徴としているといえるだろう。地方の過疎化は進み、村を維持するための手段として犯罪に手を染めざる負えない状況ほど見ていてやりきれないものはない。

 実際に起きた村八分事件をモチーフにしている本作。閉鎖社会だからこそ起きる狂気と集団心理は、おぞましい光景を描き出している。

(文・阿部早苗)

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【了】

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