伊東蒼の時代が来る…映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』を観て確信したワケ。役者としての稀有な魅力を徹底解説
text by ばやし
お笑いコンビ・ジャルジャルの福徳秀介の同名小説を大九明子が映画化した『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』が現在公開中だ。本作で圧巻の芝居を見せる、今注目の女優・伊東蒼をピックアップ。弱冠19歳ながら、驚異の表現力を持つ彼女の魅力を徹底解明する。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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堰き止める芝居で真骨頂を発揮
感情が弾けそうで、ぎりぎりのところで弾けない。表情が崩れそうで、崩れきらない――。
『今日の空がいちばん好き、とまだ言えない僕は』(2025)でさっちゃんが見せた長台詞と、それをワンカットで捉えた繊細な表情には、堰き止められた感情が、今にも溢れ出しそうな危うさをもって、静かに映し出されていた。
演じたのは、今まさに俳優として飛躍を遂げようとしている伊東蒼。彼女の芝居には、まるでコップの縁までなみなみと注がれた水が、表面張力でなんとかこぼれまいと耐えているような張りつめた緊張感がある。そして、その崩壊寸前で感情を留める力こそが、彼女の圧倒的な演技力の証に他ならない。
本作は、お笑いコンビ・ジャルジャルの福徳秀介による同名小説を原作に、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(2023、NHK総合)で知られる大九明子監督が映像化した作品である。
萩原利久や河合優実など、いまや押しも押されぬ主演俳優として活躍するキャストが揃うなかであっても、伊東蒼が演じる“さっちゃん”という存在は、観る者の心に深く残り、簡単には消え去らない余韻を残したに違いない。