死の危険も…邦画史上最も壮絶な撮影エピソードは? 過酷ロケで知られる作品5選。命がけで製作された渾身の名作たち

text by 阿部早苗

極寒の雪山、吹きすさぶブリザード、そして限界ギリギリの肉体と精神。今回紹介するのは、日本映画史に残る「過酷なロケ地」で撮影された5本の邦画。役者もスタッフも命を懸けた壮絶な現場で生まれた作品には、CGでは表現しきれないリアルな臨場感が宿っている。感動と迫力の裏に隠された撮影秘話に迫る。(文・阿部早苗)

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極寒のリアリズムを追求

『八甲田山』(1977)

高倉健
高倉健【Getty Images】

監督:森谷司郎
キャスト:高倉健、北大路欣也、三國連太郎

【作品内容】
 明治34年、寒地訓練のため神田大尉率いる青森第五連隊210名と徳島大尉率いる弘前第三十一連隊27名が冬の八甲田山へと向かった。しかし、準備不足の神田隊は猛吹雪で遭難してしまう。

【注目ポイント】
 実際に起きた「八甲田雪中行軍遭難事件」を題材に、明治時代の軍隊組織の実情と、人間の極限状態を描いた映画『八甲田山』(1977)。

 原作は新田次郎の同名小説。監督を務めたのは、日本映画界の名匠・森谷司郎。主演の高倉健をはじめ、北大路欣也、三國連太郎といった名優たちが集結した。

 本作の撮影は、日本映画史においても特筆される過酷さで知られる。実際に遭難事件が起きた八甲田山を舞台に、当時と同じ冬季、同等の気象条件下で撮影が敢行されたのだ。

 氷点下20度を下回る極寒の中、撮影隊は宿舎から山中のロケ地まで約3時間かけて徒歩で移動。現場に着いても吹雪の中、長時間出番を待ち続けるという過酷な状況に身を置いていた。

 さらに、登場人物の軍装や装備も史実に忠実に再現され、俳優陣は重い荷物を背負いながら雪中を進むなど、実際の行軍さながらの体当たり演技が求められた。主演の高倉健は、撮影中に足を凍傷で負傷したという逸話も残る。

 撮影監督の木村大作は、過酷な現場を自らの責任でやり抜くと覚悟を固め、現場を鼓舞。俳優陣の士気が下がったときには、極寒の十和田湖に自ら飛び込んで意気を高めたというエピソードは、今も語り継がれている。

 また、雪崩のシーンではリアリズムを追求するため、実際にダイナマイトを用いて人工的に雪崩を起こし、カメラが雪に飲み込まれるほどの迫力ある映像を撮影。制作陣の妥協を許さない姿勢が貫かれていた。

 こうして完成した『八甲田山』は、極限状況における人間の恐怖、葛藤、無力さを克明に描き出す。原作者の新田次郎も、完成した映画を観て「原作を超えた」と最大級の賛辞を贈ったという。まさに、日本映画史に残る執念と魂の結晶である。

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