1990年代最高の邦画は? 日本映画黄金期の傑作5選。素晴らしい完成度…後世に語り継ぐべき珠玉の作品をセレクト

text by 村松健太郎

1990年代の邦画には、今なお色褪せぬ珠玉の名作が数多く存在する。時代の空気を映しつつ、人と人との絆や葛藤を繊細に描いたそれらの作品は、観る者の心に深く刻まれる。ここでは、90年代邦画の魅力を語るうえで欠かせない5本を厳選し、それぞれの魅力に迫る。(文・村松健太郎)

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山田洋次が描く、親子の断絶と和解の物語

『息子』(1991)

三國連太郎【Getty Images】
三國連太郎【Getty Images】

監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝間義隆
出演者:三國連太郎、永瀬正敏、和久井映見、田中隆三、原田美枝子

【作品内容】

 岩手の山奥で農業を営む父親の昭男(三國連太郎)と、バブル景気の好調さの中でアルバイト先を転々とする息子・哲夫(永瀬正敏)の物語。時に反発しあいながらも、やがて和解していく父と息子の絆を、山田洋次監督が四季折々の風景や当時の社会世相なども交えながら描いている。新たに鉄工所で働き始めた哲夫は、そこで征子という女性に出逢い想いを寄せる。しかし、征子にはある事情があった… 。

【注目ポイント】

 1960年代から日本映画界を牽引し続けてきた名匠・山田洋次。彼の代表作といえば、渥美清主演による『男はつらいよ』(1969〜)シリーズがまず挙げられるだろう。渥美の死去まで、ほぼ毎年一本という驚異的なペースで新作を発表し続けたこのシリーズは、日本人の心に深く根を下ろし、国民的映画として長年親しまれてきた。

 その一方で、山田は『男はつらいよ』シリーズと並行して、『幸福の黄色いハンカチ』(1977)、『遙かなる山の呼び声』(1980)、『キネマの天地』(1986)など、名作と呼ぶにふさわしい作品を次々と世に送り出している。人間への温かな眼差しと、繊細かつ誠実な演出力は、ジャンルを問わずすべての作品に一貫して宿っている。

 1991年には、椎名誠の短編小説「倉庫作業員」を原作とした『息子』を発表。和久井映見、原田美枝子、田中隆三、田中邦衛、いかりや長介といった実力派が名を連ね、深い余韻を残す人間ドラマに仕上がった。公開後の評価も高く、日本アカデミー賞最優秀作品賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞をはじめ、キネマ旬報ベスト・テン1位、毎日映画コンクール、報知映画賞など、主要な映画賞を席巻した。

 その後も山田は『男はつらいよ』と並行して、精力的に新作を手がけていく。1993年からは『学校』シリーズをスタートさせ、1990年代のうちに4作を完成させている。社会の片隅に光を当て、静かに寄り添うような山田のまなざしは、どの時代においても変わらず観客の胸を打ち続けている。

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