映画『ドライブ』の主人公は最後どうなった? 2010年代を代表する傑作の謎めいた細部やエンディングを解説
ニコラス・ウィンディング・レフン監督の映画『ドライヴ』(2011)は、過去数10年の中でも、最高の映画の1つとして広く多くのファンに認められている作品だ。この作品の中で主人公ドライバーのエンディングがどうなったのかという憶測がファンの間で広まっている。今回は米colliderの記事を参考にその内容を見ていくことにする。
主人公が着用しているジャケットのサソリに隠された意味とは?
ニコラス・ウィンディング・レフン監督が手がける作品は、その衝撃的な内容から、批評家や観客の間で賛否両論を巻き起こすケースが多い。しかし、ハリウッドでの初監督映画『ドライヴ』(2011)は、目の肥えた映画ファンの心をガッチリ掴んでおり、今世紀以降に作られた映画の中でも、最高の作品の一つとして広く認められている。
映画『ドライヴ』は、ニコラス・ウィンディング・レフン監督が「中身より格好」を重視した映画監督でないことを証明した作品だ。衝撃的なアクションシーンで観客を興奮させる一方、映画の核心は、人間の陰湿さやブラックな部分を取り込み、現代的なスリラーに昇華しつつ、愛の物語を見事に描いている点にある。
主人公の孤独なドライバー(ライアン・ゴズリング)は、同じアパートに住む隣人のアイリーン(キャリー・マリガン)と恋に落ち、彼女の幼い息子ベニチオ(ケイデン・レオス)にも愛情を注ぐが、彼女の夫スタンダード・ガブリエル(オスカー・アイザック)が危険な前科者であることを知り、葛藤を抱く。
俳優ライアン・ゴズリングのほとんど言葉を発しないクールな演技は、従来のアクション映画の主人公とは異質だ。それもあり、本作は『ワイルド・スピード』シリーズに近いものを期待して観に来た一部の観客を困惑させたのだった。
映画『ドライヴ』が描く物語は、シンプルではなく、複雑な意味合いを持っている。主人公のドライバーは、最後まで自身の本質的な部分を変えることができず、過去に犯した暴力行為は彼の一挙手一投足に影を落としている。
序盤、隣人のアイリーンの息子ベニチオと一緒に映画を観ていたドライバーは「サメが悪役だとわかる」と発言。ベニチオは「サメが“良い人”になることはあるのか」と尋ねると、ドライバーは「ありえない」と回答する。これは隣人アイリーンと普通の家庭を築きたいのに、犯罪の世界に引きずり込まれていくドライバーのジレンマを表現している。また暴力事件に巻き込まれることで、今後自分がどうなってしまうのかわからない、という内面の恐怖も示唆している。
このテーマに関しては、有名な寓話「サソリとカエル」からヒントを得ることができる。寓話の内容は次の通りだ。サソリはカエルに「背中に乗せて川を渡って欲しい」と頼むが、カエルはサソリに刺されることを恐れて断る。それに対しサソリは「刺すことになったら二人とも溺れる」と返答。カエルはサソリの言い分に納得するが、結局のところ、川を渡る最中、サソリは自身の性質を変えることができず、カエルを刺し、両者とも溺れてしまう。
主人公が身につけるジャケットにサソリの絵が描かれているのは偶然ではなく、彼が辿ろうとしている運命を示唆しているようだ。
ドライバーはアイリーンと最後の時間を過ごした直後、エレベーター内で出くわした凶悪犯を、彼女の目の前で踏み殺す。このシーンは、主人公がアイリーンを自身の属する残虐な世界に引き込んでしまうという点で、寓話「サソリとカエル」における、サソリがカエルを「刺す」部分と重なる。
その後、自動車修理工場の経営者であるシャノン(ブライアン・クランストン)の遺体を発見したとき、主人公・ドライバーのサソリのような一面が強く現れる。ラバーマスクを装着した彼は、ビーチで復讐相手であるニノ(ロン・パールマン)を退治。その後、ベテランマフィアのバーニーから「手に入れた金を渡せばアイリーンとベニチオを保護する」と言われる。
バーニーとレストランで会うことを決めた主人公は、アイリーンに電話をかけ、「自分はもう戻らない」と言い、彼女の安全は保証されると告げる。このシーンは、主人公が自身の死を受け入れているということではなく、アイリーンを危険に晒さないために、もう二度と会わないことを意味しているようだ。
主人公は、この映画の主題歌であるエレクトリック・ユースの「A Real Hero」の歌詞にある、“本物の人間”としてアイリーンがいつの日か、自分のことを懐かしく思い出してくれることを望んでいるのだ。
その後バーニーに会い、金を渡した後、ドライバーは腹を刺されるが、ドライバーもバーニーを刺す。ナイフを持っていたことから、裏切られることを予測しており、バーニーを殺すつもりでレストランに入ったと考えられる。
主人公のドライバーは、彼自身が思い描いたビジョンの通り、2度とアイリーンに会うことなく終わりを迎えた…。それが一般的なラストの解釈だが、別の可能性もある。主人公の手に付いている血はまだ新しく、彼の人生が今後も続く可能性もわずかではあるが見出せるのだ。
何はともあれ、映画『ドライヴ』は老若男女が楽しめる娯楽作だが、何度も鑑賞することで新しい発見ができる、興味深い作品だ。本記事をガイドにぜひ再見してみてほしい。
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