思いっきり泣ける…「名曲」をテーマにした珠玉の日本映画5選。音楽も映像も最高…涙腺崩壊必至の邦画をセレクト

text by 阿部早苗

名曲に込められた想いが、新たな命を得てスクリーンで物語として立ち上がる。実話や青春、純愛、喪失と再生――音楽の力が物語を導く、心に残る邦画を5本セレクト。モチーフとなった楽曲と映画の魅力を解説する。(文・阿部早苗)

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夏川りみの名曲を映画化した感動作

『涙そうそう』(2006)

長澤まさみ
長澤まさみ【Getty Images】

監督:土井裕泰
キャスト:妻夫木聡、長澤まさみ、大森南朋、麻生久美子、中村達也

【作品内容】

 血の繋がらない兄妹、洋太郎(妻夫木聡)とカオル(長澤まさみ)。高校入学を機に、カオルは那覇で一人暮らしをしていた洋太郎と再び同居を始める。成長したカオルに戸惑う洋太郎と、兄以上の想いを抱くカオル。居酒屋経営の夢も破れ働き詰めの日々を送る中、カオルは洋太郎が実の兄でないことを知ってしまう。

【注目ポイント】

 夏川りみの「涙そうそう」は、2001年のリリースから今なお、世代を超えて愛され続ける名曲だ。沖縄の方言で「涙がぽろぽろこぼれる」という意味を持ち、愛する人への思いと喪失の哀しみをやさしく包み込んでくれる。そんな歌の世界観をモチーフに紡がれたのが、2006年公開の映画『涙そうそう』である。

 物語の舞台は沖縄。幼くして両親を亡くした義理の姉弟、新垣洋太郎(妻夫木聡)とカオル(長澤まさみ)は、血のつながりを超えて深い絆で結ばれている。洋太郎は妹の将来のために懸命に働き、明るさの裏に苦悩を抱えながら支え続けてきた。しかし、穏やかだったふたりの日々に、やがて思いもよらない運命の波が押し寄せる。

 監督は『片思い世界』(2025)などで知られる土井裕泰。南国のまぶしい光と影、どこか切なさを含んだ日常風景が、歌の情感と響き合う。特に終盤で流れるメインテーマは、観る者の心に深く染み入り、物語の余韻をいっそう強く残している。

 キャストの演技も作品の魅力を支えている。妻夫木は誠実で不器用な青年の成長と葛藤を細やかに表現し、長澤は少女から大人へと成長するカオルの揺れ動く心情を自然に演じた。

 本作は単なる歌詞の映像化ではなく、楽曲が抱く「喪失」と「希望」という普遍的な感情を丁寧に物語として紡いだ作品だ。観終わったあと、あらためて「涙そうそう」を聴けば、歌詞のひとつひとつがより深く心に響いてくるだろう。

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