実話がおぞましい…犯罪史に残る凶悪事件をモデルにした邦画5選。コワすぎる…人間の心の闇を暴いた問題作をセレクト

text by 阿部早苗

スクリーンに映し出される凶悪な殺人事件。それがフィクションではなく、実在の犯罪者や事件を下敷きにしていたと知ったとき、観る者の心に残る余韻は一層深くなる。今回は、日本犯罪史に実在した“殺人鬼”をモデルにした邦画作品を5本セレクト。単なるサスペンスやホラーでは終わらない、人間の心の闇に迫る名作を紹介する。(文・阿部早苗)

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日本犯罪史に残る大量殺人事件から着想を得た傑作ミステリー

『八つ墓村』(1996)

豊川悦司【Getty Images】
豊川悦司【Getty Images】

監督:市川崑
脚本:大藪郁子、市川崑
原作:横溝正史
出演者:豊川悦司、浅野ゆう子、高橋和也

【作品内容】

 尋ね人の呼びかけに応じ法律事務所を訪れた寺田辰弥(萩原健一)は、亡き母の父・丑松(加藤嘉)と出会うが直後に丑松は謎の死を遂げる。辰弥は八つ墓村を訪れ、村の因縁と血塗られた連続殺人事件に巻き込まれていく。

【注目ポイント】

 1996年に公開された映画『八つ墓村』は、日本のサスペンス・ミステリー映画の金字塔と称される傑作だ。原作は横溝正史による同名小説。だがこの作品には、単なるフィクションでは語り尽くせない、戦前に実際に起きた凄惨な事件が影を落としている。それが「津山三十人殺し(津山事件)」である。

 この事件は、1938年5月21日、岡山県苫田郡西加茂村(現在の津山市加茂町)で発生した。犯人は当時21歳の青年・都井睦雄。彼はわずか1時間半の間に村を駆け巡り、猟銃と日本刀を用いて計30人もの住民を殺害した。動機は、結核による村八分、夜這い相手の女性たちとの関係のもつれ、そして病による絶望といった複数の要因が絡んでいたとされている。日本犯罪史に残る、戦慄の大量殺人事件である。

 横溝正史はこの事件に着想を得て、1949年に小説「八つ墓村」を発表。そして1977年、野村芳太郎によって映画化された。本作は、『犬神家の一族』(1976)をはじめ、横溝正史作品を原作にした独創的な映画で知られる市川崑がメガホンをとった一作だ。

 物語は岡山県の山村「八つ墓村」で起きた連続殺人を軸に展開する。作中に登場する「村人32人皆殺し」という過去の事件は、まさに津山事件の影響を色濃く反映したものだ。また現代パートでも次々に不可解な殺人が起き、村の因習、血の呪い、そして人間の業が浮かび上がっていく。

 なお、1983年に公開された映画『丑三つの村』(監督:田中登/原作:西村望)も、「津山三十人殺し」を題材とした作品である。こちらはより実録に近い構成で、加害者の孤独や精神の深層に迫る描写に重きが置かれている。『八つ墓村』が事件をミステリーとして昇華させたのに対し、『丑三つの村』は事件の生々しさと人間の暗部を突きつける作品として、異なるアプローチで津山事件を描き出している。

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