「このチームだから乗り越えられた」ドラマ『PJ〜航空救難団〜』石井杏奈が本作で築いた共演者との強い絆を語る。インタビュー

text by タナカシカ

内野聖陽主演のドラマ『PJ ~航空救難団~』(テレビ朝日系)が、毎週木曜よる9時から放送中。今回は、本作で航空自衛隊航空救難団に所属する救難員訓練生のひとり、藤木さやかを演じた石井杏奈さんにインタビューを敢行。役作りや過酷な撮影の裏側、本作への熱い思いなどたっぷりとお聞きした。(取材・文:タナカシカ)

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“熱い物語”への共鳴と覚悟

石井杏奈 写真:武馬怜子
石井杏奈 写真:武馬怜子

―――まずは、本作のお話が来たときのことを教えてください。 
  
「昨年9月頃にお話をいただいた際に、プロデューサーさんや監督、脚本の髙橋泉さんに、作品や役どころについて丁寧に説明を受けました。体力を使う仕事には自信があったので、その場で『ぜひ挑戦したいです』とお伝えしました。家へ帰ってから改めてプロットを読んだのですが、ますます気合いが入り、『絶対に頑張ろう』と決意が固まりました」 
  
―――最初にお話された時はプロットが大まかにできていて、脚本とはまた別でしたか? 

「元々私は、熱い想いや、仲間と共に成長していく物語が大好きだったので、私にとって理想の作品だと感じました。最近では、“熱さ”や“真っ直ぐさ”を真正面から描いた作品をあまり見かけない気がしていたので、そういう意味でもすごく挑戦的な役だと思いました。正直、大変になるかもしれないという不安もありましたが、『自分にしかできない役にしたい』という強い気持ちで臨みました」  
 
―――藤木さやかという人物像を、台本で読んだ上でどう解釈してご自身に落とし込んでいきましたか? 

「最初は女性1人という状況に、さやか自身コンプレックスを抱えていたと思います。でも、その気持ちをプライドで跳ねのけているような感覚が、ずっとありました。私自身も、男性の中に混じって同じ訓練を受けるという経験はなかったので、実際にやってみて、さやかと同じような気持ちになる場面がたくさんありました。

例えば、みんなが腕立て伏せを20回するのと、自分が同じ20回をやるのとでは全然違っていて、正直、何度も心が折れそうになりました。でも、そういう時こそ『さやかなら絶対に負けない』と考えて、彼女の強い意志や、努力を信じる力に自分を重ねて鼓舞しながら乗り越えていました。そうやって、役とともに自分自身を作っていくような感覚がありました」

“負けたくない精神”が支えた表現の原動力

石井杏奈 写真:武馬怜子
石井杏奈 写真:武馬怜子

―――さやかの成長が描かれた第2話は、色んな葛藤や自分自身と戦う姿がとても印象的でした。石井さんが演じられたさやかは、女性初の訓練生という立場でしたが、特別な立場を演じるにあたって意識されたことはありましたか? 

「嬉しいです。実際に、今期から本物の訓練生として入団された女性の方がいらっしゃって、その方のお話を聞いたり、同じ訓練メニューを体験させてもらったりしました。現場では、男性に気を遣わせないよう、体のラインが出にくい服を選んだり、自分の兄や弟に接するような感覚で、言葉遣いを少し荒めにしたり、接し方をあえてフランクにしたりと、意識して立ち振る舞いを作っていきました」 

―――さやかは勝気で芯の強い印象がありますが、1人になる場面では、葛藤や不安といった“内に抱えた感情”が垣間見えるシーンもあり、とても印象的でした。こうした複雑な心の動きを表現する上で、特に意識されたことや工夫された点があれば教えてください。

「監督とは事前にディスカッションもしていましたが、根底にあったのは『負けたくない』という気持ちでした。実際、撮影に入ってから、体力面ではどうしても勝てない場面が多くて、すごく悔しさを感じていました。その感情は、演じた“さやか”とも重なる部分です。でも、それは『誰かに勝ちたい』というより、『みんなと同じレベルに立ちたい』という思いが強かったからだと思うので、その気持ちを原動力に、全力で向き合っていました」

―――滲み出るような“悔しさ”や“葛藤”などを表情に込められるのは、やはり藤木さやかという人物に深く寄り添っているからこそだと思います。 
 
「なので今回、自分の心が折れそうになった時は、さやかに鼓舞してもらっていました。『さやかだったら、絶対に泣かない。これをきっと自分の強みに変える。こんなことでくじけたりしない』と、自分自身に問いかけるようにして、『さやかだったらどうするか』を、常に考えながら撮影に臨んでいました」

過酷な現場で生まれた共演者との絆

石井杏奈 写真:武馬怜子
石井杏奈 写真:武馬怜子

―――第4話の山岳救助の回は、特に同期6人との絆が感じられました。

「4話、5話は、山に10日間くらい泊まり込んで撮影をしたんです。山登りで体を駆使して、体力的にもかなり厳しい状況だったんですが、それでも最後までやり切れたのは、共演者のみんなのおかげだなと思います。

誰ひとりとして、イライラしたり、雰囲気が沈んだりすることがなくて、ずっと笑い合いながら、集中すべきところは集中する。そんなメリハリのあるチームだったからこそ、朝から晩まで元気に過ごせました。疲れたときはふとこぼした言葉を誰かが受け止めてくれて、嫌なことも素直に言い合える空気があったんです。本当の意味での“仲間”になれたと実感できたのは、あの山岳シーンを乗り越えた時でした」

―――過酷な環境の中でこそ生まれた信頼や絆が、現場の空気を支えていたんですね。塗装されていない山道は、歩くだけでも大変だったのではないかと推測します。

「歩く道じゃないという現場で、いつ怪我してもおかしくないような場所でした。撮影が終わったあと、グループの連絡網でみんなが『山岳、無事に終わりました』『乗り越えられたのはみんなのおかげです』とメッセージを送り合っていて、それがすごく印象に残っています。もはや撮影というより、学校の行事みたいな感覚でした。仕事で来ているというより、みんなでひとつのことを本気で乗り越えた、そんな経験だったと思います」

「このチームだからこそ乗り越えられた」

石井杏奈 写真:武馬怜子
石井杏奈 写真:武馬怜子

―――過酷な現場を一緒に乗り越える中で、特に現場の雰囲気を明るくしたり、周りを引っ張ってくれた方はどなたでしたか?

「誰かひとりが鼓舞したり引っ張ったりというよりも、『全員で頑張ろう』という空気感でしたが、そんな中でも、(前田)旺志郎くんはムードメーカーとして現場を明るく盛り上げてくれて、そのポジティブな空気が自然とみんなに伝わって、良い循環が生まれていたと思います。
リチャ(草間リチャード敬太/Aぇ! group)さんは、どんなときも変わらないテンションでいてくれて、つい話しかけたくなるんです。自然体でいられる安心感がありました」

―――作中、訓練生を引っ張る白河智樹役を演じた前田拳太郎さんは、現場でもリーダー的存在だったのでしょうか?

「(前田)拳太郎くんは、役柄とは真逆で、末っ子気質で、現場の癒しキャラでした。みんなを和ませてくれる存在です。リーダーというより、みんなを引っ張ってくれるお兄ちゃんのような存在だったのは、犬飼(貴丈)さんです。スマートで頼りがいがあって、で、お菓子をくれたりする優しい一面もあって(笑)。すごく優しくてあたたかかったです。(渡辺)碧斗くんは運動神経が抜群で、撮影では背中で引っ張ってくれるような力強さがありました。でも決して驕らず、常に『一緒に頑張ろう』と寄り添ってくれる優しさもあって、すごく信頼していました。

(神尾)楓珠くんは、私をおんぶするシーンがあったのですが、絶対にきついはずなのに、弱音ひとつ言わず、むしろ笑わせてくれて。あの姿にすごく助けられました。本当に、みんなそれぞれに素敵な部分があって。このメンバーだからこそ乗り越えられた作品だったなと心から思います」 

神尾楓珠と挑んだ水中シーン

石井杏奈 写真:武馬怜子
石井杏奈 写真:武馬怜子

―――2話では、藤木は沢井とバディを組みます。藤木はどこか苛立ちをぶつけるような言動を見せますが、お2人の芝居の呼吸がとても合っていると感じました。特に水中でのシーンは危険も伴う分、お互いの信頼関係があってこそ成立するものだと思います。沢井を演じた神尾さんとはそういったシーンに向けて、どのようにディスカッションや準備をされたのでしょうか。
  
「プールでの撮影は水中シーンが多く、危険を伴うものだったので、神尾さんとは事前に『本当に無理だと思ったら、すぐやめようね』と話し合っていました。撮影中も常に『ここはきついね』『無理しないほうがいいね』とお互いに確認し合いながら、『まだいける?』『限界だったら手を挙げようね』と声をかけ続けていました。それ以外の部分はこれまでの訓練で積み重ねてきたことを出すだけでしたが、『命に関わることだけは、自分たちでしっかり判断してギブアップしよう』と最初から決めて臨んでいました」

―――撮影の前はやはり不安に感じたのではないでしょうか? 
 
「そうですね。いくら練習を重ねても、本番になると呼吸が浅くなってしまって、本番と同じ気持ちでは練習できないんです。『本番でちゃんとできるかな』とずっと不安を抱えながら臨んでいて…。正直、3回くらいブラックアウトするかもって思ったくらい、本当にギリギリの状態での撮影でした」

「役を“生きる”ように演じていきたい」

芝居観の大きな転機

石井杏奈 写真:武馬怜子
石井杏奈 写真:武馬怜子

―――本品を通してご自身が得た1番の学びや気付きを教えてください。 
  
「これまで私は『オンとオフをしっかり分けるタイプ』だと思っていました。現場ではスイッチを入れて集中するけれど、家に帰れば完全にオフ。ライバル役だからといって距離を置いたり、恋人役だからといって相手を本当に好きになる必要はない。あくまで“お芝居の中で感じたことを大切にしたい”と思っていたんです。

でも今回の現場では、自然とみんなと仲良くなって、『仲間がいたから頑張れた』と心から感じる瞬間がたくさんありました。撮影中だけでなく、訓練や食事の時間など、日常の中でも『みんなと一緒にいられてよかった』と心から思えたんです。

そういった感情の積み重ねが、第5話の撮影にも大きく活きました。そのときふと、『私は“演じる人”というより、“生きる人”なのかもしれない』と感じたんです。ただ役をどう演じるかではなく、その関係性や時間を通して生まれる感情が芝居に繋がっていく。これからは、そうやって役を“生きる”ように演じていきたい、という気づきがありました」

―――石井さんにとって、演技に対する考え方が大きく変わるような、特別な作品になったんですね。ご自身の中でも、大きな転機となったのではないでしょうか。

「なりました。多分共演者やスタッフにとっても、すごく大きい作品になったと思います」 

―――最後に、『PJ 〜航空救難団〜』のファンのみなさんへ、メッセージをお願いします。 
  
「本作の台本の裏に『救え』と、大きく書いてあるんです。実際の基地にも、階段に大きく『救え』っていう言葉が飾ってあって、その言葉は、この作品が1番大切にしているメッセージなんです。

『救え』という言葉はシンプルですが、その意味は人それぞれで大きく変わります。人を救う、誰かの心を救う、物や自然を救う、自分自身を救う――。受け取り方次第で、さまざまな解釈ができるからこそ、この言葉が投げかける問いを、見る人それぞれに考えてほしいと思っています。

救難員たちが日々行っている訓練は、まさに“救う”ための行動の積み重ねです。誰かを救うために自分を追い込む、自分を救うために努力を続ける。その覚悟や行動の背景にある思いを、この作品を通して感じてもらえたら嬉しいです」 

(取材・文:タナカシカ)

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【了】

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