人気の秘訣は「難解さ」にあり…? 原作との決定的な違いとは? 映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』評価&ネタバレ解説

text by ZAKKY

漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフとして誕生した『岸辺露伴は動かない』。その実写ドラマを高橋一生主演で映画化したシリーズ第2作『岸辺露伴は動かない 懺悔室』が公開中だ。今回は原作ファンのライターがオリジナルとの比較を交えながら、一部で「難解」と評される本作をネタバレ解説する。(文・ZAKKY)【あらすじ キャスト 解説考察 評価 レビュー】

※このレビューは原作と映画のクライマックスについて言及しています。未見の方はご注意ください。
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冒頭から映画オリジナル要素がてんこ盛り

© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 2023年公開の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』に続く、『岸辺露伴は動かない』シリーズの映画版第二弾となる本作。 今回は全編イタリアロケという気合いの入りようである。思い返すと、前作のラストで、ヒロインであり、露伴の相棒である編集者・泉京香が、「次の取材先はイタリア」とつぶやいていたのだった。本作の情報が解禁された時、『岸辺露伴』原作ファンたちは、思わずニヤリとしたであろう。 そう、ついに原作シリーズ第1作目に当たる、『懺悔室』を映画化してほしいという願望が現実となったからだ。

 ここからは、本作の原作との違いや、新たに加えられた設定・ストーリー、キャラクターの魅力について語っていきたい。

 漫画『ジョジョの奇妙な冒険』本編第5部の舞台がイタリアであり、第4部の主要キャラ・岸辺露伴が、過去にイタリアに行った際に体験した奇妙な出来事を回想するスピンオフのエピソードが今回の映画の原作である。

 まず、冒頭から原作とは異なる展開が描かれる。露伴がイタリアに渡航する理由は、海外でも人気の岸辺露伴作による漫画『ピンクダークの少年』の大ファンである、ヴェネツィアの大学の関係者・ロレンツォから招待を受けて、大学のイベントに参加することになったからである。

 編集者・泉京香より先にイタリアのヴェネツィアに乗り込んでいた露伴は、2人組のスリに話しかけられるが、2人を自身の能力「ヘブンズ・ドアー」にて本に変え、2人の人生を読み解く。

 本の中には、 1人が所持していたマスクについて、「このマスクを手にせずにはいられなかった」と書かれていた。興味を持った露伴は、マスクが作られた工房に向かうと、そこにはマリア(玉城ティナ)という、日本人とイタリア人のハーフであるマスク職人がいた。

 ここまでがまず、原作にはないパートなのだが、後の展開に効いてくる。そもそも、「マスク」というアイテム自体が原作には存在しないことを言及しておきたい。

懺悔室でのエピソードが物語の口火を切る

© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 その後、露伴はある教会を訪れるのだが、誤って、教会内にある『懺悔室』の神父側の部屋に入ってしまう。 そこにマスクを被った男が現れ、格子越しの露伴を神父と勘違いし懺悔をする。露伴はその男のイタリア語の発音に違和感を覚えたのか、「あなた、日本人ですよね?」と、彼が日本人であることを見抜き、その後は日本語での会話へ。

露伴「どうして仮面を?」
懺悔者「秘密を抱えることは苦しい。それが重大であればあるほど。時間が経てばたつほど苦しみ、心は悲鳴を上げていく」

 神父になりすました露伴は「あなたの救いになるならどうぞ」と、懺悔を聞く。

 懺悔者である水尾(大東俊介)が語った話は次の通りだ。25年前、当てもない旅の道中、イタリアを訪れたがスリに遭い、一文無しに。そこから肉体労働のバイトをしていたところ、日系人の浮浪者・ソトバ(戸次重幸)に食べ物を求められるが、「お前が言うべきは食べさせてくださいじゃなくて、働かせてくださいだろ。食べたきゃ働け」と、怪我と病気をしているソトバに肉体労働を強制した挙句、ソトバは階段から転落し、死亡してしまう。

 焦る水尾はソトバの怨霊に足を掴まれ、「俺は暗い絶望の中にいる。俺は絶対に忘れない。お前が幸せの絶頂の中、俺以上の絶望を味合わせてやる」と、呪いをかけられた。

 その日から、水尾には幸福が次々と訪れる。巨万の富を得て、トップモデルと結婚。しかし、幸せになればなるほど、ソトバの怨念が忘れられず、怯える日々を過ごす。その後、娘を授かり、さらに幸せになってしまうのだが、その娘こそが、冒頭にて成長した姿で登場したマスク職人のマリアだったのだ。

 この展開は非常に巧みである。

 原作では、マリアの成長後のエピソードはない。映画冒頭で大人になったマリアを先に見せることで、後述する過去エピソードへのつながりが濃くなるからである。

キャリア集大成となる名演を見せる大東俊介

© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 ここからの水尾とマリアの過去のエピソードは、原作に忠実に描かれている。

 公園で「ポップコーンを頭上に投げて口でキャッチする」という遊びに興じるマリアを、執事・田宮(井浦新)と共に楽しそうに見つめる水尾。 しかし、マリアの身体がソトバの怨念に乗っ取られる。マリアの舌が膨れ上がり、言わば「人面舌」といったような異形な姿でソトバの怨念が現れる。

 そして、「お前がそのポップコーンをあのランプより高い位置に飛ばして口でキャッチを3回続けてできたら、俺は逆恨みだと受け入れよう。しかし、失敗したら最大の絶望を受け入れろ」「お前の娘が幸せの絶頂に達したとき、お前は最大の絶望に見舞われる」 と、何とも理不尽な勝負を水尾は挑まれる。

 ここでの水尾役の大東俊介の演技に要注目していただきたい。ポップコーンの袋をバサッと宙に開封し、落ちてくる数十個のポップコーンの中からひとつキャッチできればいいという、いかにも『岸部露伴』ワールド炸裂な奇妙な演出なのだが、そのシーンでの大東の必死な表情。

「そんなに眼球動くんか!」とツッコミたくなる目力。これまでどの俳優からも見たことのない形相は、奇妙な表情やポーズを描かせたら右に出る者はいないことで有名な原作者・荒木飛呂彦先生の画風を超えた! と断言しても過言ではない。

 その異常なまでの怪演は、本作の殊勲賞であり、大東俊介の俳優人生におけるターニングポイントとなることであろうと、筆者は睨んでいる。(奇妙な表情をする役ばかりオファーされても困るであろうが(笑))

 そもそも、『岸部露伴は動かない』シリーズは、森山未來(『くしゃがら』2010)など、毎回、ゲスト俳優が怪演を力の限り尽くすのだが、大東はその中でもトップクラスの存在感を放っている。

骨子となるのは『ジョジョの奇妙な冒険』屈指の怪談エピソード

© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 結局、水尾はポップコーン勝負に負けて、ソトバの怨霊に殺される。では、なぜ、死んだはずの水尾は25年後に懺悔室に現れたのか?

 そう、水尾はかつて詐欺師であった執事・田宮に高額の金を与えることを条件にお互い整形手術を施し、顔を入れ替えることに成功していた。要するにソトバの怨霊を外見は水尾である執事・田宮に向けさせ、ソトバの怨霊からの追跡を断とうとしていたのだ。

 ということは、ポップコーン勝負をしていた水尾の中身は、実は田宮だったということになる。 結果、懺悔室に現れた仮面の男の外見は田宮で、中身は水尾であったのだ。

 なぜ、顔が変わった水尾が懺悔室に訪れたのかというと、浮浪者・ソトバの怨霊の追跡はまだ終わっていなかった。しかも、執事・田宮の怨霊ともタッグを組んで、ダブル怨霊として追跡してくるという事態が25年も続いており、藁にもすがる思いで、懺悔室に来たというわけだ。

 その2人の怨霊が教会内にも入り込んできた状況を見て、露伴も思わず絶句してしまう。ここまでの教会内・懺悔室のシーンが、原作のエピソードである。 言わば、「露伴がイタリアで、かつて体験した奇妙でゾッとした」エピソードを、日本の友人に語る、いわば怪談なのである。

脚本家・小林靖子が描く「岸辺露伴らしさ」

© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 そして、中盤から映画オリジナルの展開になるのだが、少しややこしいので注意してほしい。

 前述の通り、水尾と田宮は整形手術で顔が入れ替わっているため、
・水尾=井浦新
・執事・田宮の亡霊=大東俊介
と、中盤以降は配役が切り替わる。とはいえ、整形手術の描写自体はないので、セリフをしっかりと聞いていないと、何が起こったのか、少しわかりづらい。映画版オリジナルシーンとして整形手術の描写があった方が伝わりやすかったのでは? と、筆者は思うところだ。

 そして、大人になったマリアが再び登場する。なんと、露伴をイタリアに召喚したロレンツォと結婚間際だというのだ。大人になったマリア&ロレンツォのラブストーリーへと展開してゆく流れはしっくりきた。

 しかしながら、父である水尾が両者の仲を引き裂こうとする。なぜなら「マリアが幸せになること=自分も最高の幸福となる=自身は怨霊に殺される」という図式になってしまうからである。よって、自身の手下に結婚の阻止を命じる。そのためにはロレンツォの殺害も辞さない構えだ。

 こちらの流れも秀逸である。善人であった水尾が、完全な悪人に変わってしまう瞬間が描かれており、悲しいかな、物語終焉の彼の末路につながるからだ。

 さらに、原作にはないオリジナル設定も効いている。かつて露伴は懺悔室にて水尾をヘブンズ・ドアーで本にした際に、本に付着していた「幸運を得ると不幸になる呪いの血」に触れていた。それにより、自身も水尾と同じ呪いにかかることとなっていたのだ。

 このアイディアは素晴らしい!

 露伴は指に血が付着している間、自身の漫画が海外でもヒットするなど、幸運に見舞われるが、それを良しとせず、呪いを断ち切ろうとする。

「僕は漫画家だ! そこに幸運が入り込む余地はない。あくまでも読者に漫画を届けるだけだ!」と。 また、偶然宝くじが道端に落ちているのを拾わずに踏みつけるなど、稚拙な一面も持ちながら、根底的には誇り高い露伴らしさを、脚本家・小林靖子は見事に表現している。

賛否が分かれる映画オリジナルの結末

© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
© 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 結局、マリアとロレンツォは、露伴が水尾の手下に施したヘブンズ・ドアー能力で「殺人の命令を受けない」と書き込んだことにより、事なきを得て無事に結婚。「最高の幸福」を手に入れることになる。

 一方、水尾は死ぬまで怨霊たちに追いかけ回され、自殺しようとしても死ねない…という結末が待ち受ける。

 最後に原作とは異なる、映画版オリジナルである結末を考察しよう。

・露伴が「幸運になると不幸になる呪いの血」により、水尾と同じ苦しみを味わうかと思いきや、露伴は自身の精神性・精神力で打ち勝つ。
・一方、水尾は、自身の犯した罪と怨念から逃げ回ってきた。

 露伴と水尾の対比こそが、今回の映画の意図なのではないだろうか。いずれにせよ「精神性・精神力」は、『岸辺露伴』『ジョジョ』シリーズでは非常に重要視されているテーマであることを、作り手が非常に理解していることが垣間見られる。

 ただし、筆者は水尾を最終的に「罪人」だと補完する設定は、少し可哀そうな気がしている。

 以下は、水尾の所業を「〇△×」で評価し、×が多いほど「罪人」ということとする。

〇 当てもなく、世界を旅していた善良な若者だった
△ 浮浪者・ソトバに食料を与えず、自身の仕事を押し付け、死亡させた
× ソトバの怨霊から逃れるため、執事・田宮を生贄とした
× 自身が生き延びるため、娘・マリアのフィアンセであるロレンツォを殺害しようとした
 
 やはり、僅差で「×」が二票なので、「罪人」と認定か。…なのだが、ここでレビューを終わらせたくはない。

 そもそも、「浮浪者・ソトバの逆恨みが元凶やろ!」と、筆者は原作と読んだ時から常々思っていた。

 おそらく作者は「世の中は不尽なものだ」ということを描きたかったのかもしれない。その気持ちはわかる。水尾を地に落ちた人間にしないと、物語としての落としどころがないのもわかる。しかし、水尾に情状酌量の余地をもう少し与えてもらえてもいいのではないかと思うのだ。

 マリアとロレンツォは、結婚により「一番の幸せ」を得たことは、もちろんハッピーエンドであるが、その裏で父親の水尾は、ずっと怨霊に付きまとわれているわけである。

 100%ないとは思うが、マリアがそのことに気づいて、父親である水尾を露伴と共に救いに行く続編を想像してしまう。

 たとえば、露伴がヘブンズ・ドアー能力で、水尾に「これまでの恐怖で充分に罪を償った。これ以上怨霊に追われることはない」と書き込むオチなどを妄想してしまう次第なのである。

(文・ZAKKY)

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【了】

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