見るたびに松本若菜のファンになっていく…ドラマ『Dr.アシュラ』最終話で魅せたセリフ回しの妙とは? 考察&感想レビュー【ネタバレ】
松本若菜主演のドラマ『Dr.アシュラ』(フジテレビ系)が放送中だ。本作は、こしのりょうの同名漫画を原作とした救命医療ドラマ。“アシュラ”と呼ばれる凄腕のスーパー救命医の活躍を描く。今回は、最終話のレビューをお届けする。(文・柚月裕実)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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朱羅(松本若菜)に降りかかった災難
救命医引退の危機は突然やってきた。救急に運ばれてきた患者が「ここ、どこだ?」と暴れ回る波乱の幕開け。薬師寺保(佐野晶哉)の制止も虚しく、手にしたもので看護師に殴りかかろうとしたところへ、杏野朱羅(松本若菜)が間に入ってガード。ところが朱羅は右側のこめかみを負傷し、流血してしまう。
薬師寺が「先生、血が!」と気遣うも、朱羅は「今はこの人が先!」と、患者を最優先。
「どんな急患も絶対に断らない、そしてどんな手を使ってでも絶対に助けるスゴ腕のスーパー救命医」の紹介文の通り、患者だろうが仲間だろうが人を助ける。使命というか執念だ。
そんな朱羅に降りかかったのは、皮肉にも視神経を圧迫するほどの重症。頭部CTスキャンの結果では所見はなしという診断だったが、時間経過とともに視神経への圧迫が進行。物がゆがんで見えるという、医師としては致命的な事態だ。
六道ナオミ(小雪)によれば、早く手術をしないと回復の可能性は低くなるといい「このオペは難易度も高い上に症例も少ない」と、早急に執刀医を探さなければならない。人を救ってきた朱羅にどうしてこんな災難が降りかかるのだ…。
翌日から外科研修に入った薬師寺。大黒修二(田辺誠一)が朱羅に「薬師寺ともお別れだぞ」と言っていたが、今度は入院する朱羅の担当医となった。
薬師寺(佐野晶哉)に根付いた救命医としての執念
しばし受け入れを休止することになった帝釈総合病院救命科。それは朱羅の存在がどれほど大きなものかを物語っていた。そんな中、交通事故による6名の受け入れ要請が入り、その患者の中には、金剛又吉(鈴木浩介)からおつかいを頼まれた薬師寺がいた。
病室を抜け出した朱羅が、医師として救急の現場に立つ。どんな職業であれ、ここまで自分を犠牲にできるだろうか。運び込まれた薬師寺もまた、負傷しているにも関わらず患者のケアに当たる。研修医ではあるものの救命医としての使命感やすさまじい執念は彼にも根付いていた。
悲劇が悲劇を呼び、朱羅の致命的な負傷に続いて今度は薬師寺が倒れてしまう。腹腔内の大量出血による出血性ショックだった。朱羅たちが戻ってくる間、一人でイスに座っていた薬師寺の姿を思い返すと胸が締め付けられる。たった一人、どんな思いで居たのだろうか。
自分を犠牲にして目の前で苦しむ患者を助けるのは医師として立派だが、もう少し自分を守っても良いのではないか。朱羅と薬師寺の勇姿を讃えるのと同時に、悔しさが込み上げてくる。
ライバル関係だった2人が…。
「あたしがやる」開腹で止血することを決めた朱羅の強いまなざしの一方で、三宝加代子(阿南敦子)に震えを抑えるようにして宣言。薬師寺の心肺停止からは、心臓マッサージで布が擦れる音だけが響いていた。「こんなところで死んでる場合じゃない」「戻ってこい!ボウズ」朱羅の呼びかけと25分に及ぶ心臓マッサージの甲斐あって一命を取り留めた薬師寺。
「もう時間がない、私がやるしかない」視界が霞んでいても器具を持つ朱羅。最後は気力しか残っていなかった。それはナオミの「待って」の声に安堵した朱羅の表情が物語っていた。
当初はライバル関係だった2人。ナオミを頼り、朱羅に手を貸す。そして朱羅の高難度のオペをナオミを筆頭に、医師や看護師が真剣に向き合っていた。そんな2人をはじめ、スタッフたちの眼差しからは、ベタかもしれないが仲間の大切さを教わった。
朱羅の「…来る」が減るに越したことはないが、いまもきっと朱羅と薬師寺が賢明に命を救っているのだろう。またいつか、彼女たちの奮闘ぶりが見られることを願うばかりだ。
『Dr.アシュラ』が描く主人公像
数多ある医療ドラマでも、近年は女性の医師を主人公にした作品も増えている印象だ。その代表格が「私、失敗しないので」でお馴染み、米倉涼子主演のドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』シリーズだろう。
「群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い」という紹介文の通り、未知子はフリーランスの外科医で、組織に属さず、目上の者であっても媚びない、怯まない“強い女”を描いたのに対して、『Dr.アシュラ』の杏野朱羅は、クールなようでいて内に熱い思いが流れる人間臭さが出ていた。
命を救うことを最優先にするスーパードクターという共通点はあるが、未知子は神原晶(岸部一徳)と城之内博美(内田有紀)には信頼を寄せるが、自分に対して絶対的な自信を持つ自立した女性像、孤高の医師像を描いた。
一方の朱羅は、最終的に熱き思いを持つ仲間が増えていったように、仲間の大切さもメッセージの一つとして伝わってきた。
松本若菜のバリエーション
本作では、松本の芝居のバリエーションに驚かされた。“松本劇場”として脚光を浴びた、ドラマ『やんごとなき一族』(フジテレビ系/2022年4月期)で演じた深山美保子役で強烈なインパクトを残した。連続ドラマ初主演作である『西園寺さんは家事をしない』(TBS系/2024年7月期)では、西園寺一妃役をコミカルに演じ、西園寺と松本の両方の人気を獲得した。
一転して“托卵”というセンシティブなテーマを描いた『わたしの宝物』(フジテレビ系/2024年10月期)では難役に挑戦。ストーリーに様々な感想が飛び交う作品だったが、松本だからこそ引き込まれたという視聴者も多いのではないだろうか。
『Dr.アシュラ』で演じた朱羅は、喜怒哀楽をはっきりと出すタイプではなく、「静かな動」とも呼ぶべき、時折見せるわずかな頬や口角の動きで喜びなどの心情を表現。根底に熱い思いがしっかり流れている様子が伝わり、最終話では負傷してからのセリフ回しが、どことなく呂律が回っていないような、絶妙なもつれを出していたように感じた。そんな松本のキャリアに裏打ちされた、繊細な演技に度々心を動かされた。
最終回を迎えたばかりで気は早いが、そろそろ“怪演”も恋しいし、パワフルなキャラクターも見てみたいと、作品を見る度に松本のファンになっていく。
【著者プロフィール:柚月裕実】
エンタメ分野の編集/ライター。音楽メディア、エンタメ誌等で執筆中。コラムやレビュー、インタビュー取材をメインにライターと編集を行ったり来たり。SMAPをきっかけにアイドルを応援すること四半世紀超。コンサートをはじめ舞台、ドラマ、映画、バラエティ、ラジオ、YouTube…365日ウォッチしています。
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