不思議と目を奪われる…。「倉庫」が登場する名作映画5選。大型写真集『ロストロフト』に影響を与えた個性豊かな作品たち

text by 中村善郎

『ロストロフト』 という失われた倉庫の写真集を作りました。写真家・安川千秋さんが撮影した横浜~横須賀の倉庫をまとめた大型写真集です。構成を練る時に、映画に撮られた倉庫のイメージにインスパイアされました。装飾のない剥き出しの機能としての建造物としての「倉庫」です。意外に、疎外された人間の背景として語ってくるものが多いんですね。そんな、バックドロップとしての倉庫、そして、港湾の倉庫街を扱った「倉庫映画」を集めてみました。(文:中村善郎)

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[プロフィール:中村善郎]
フェリーニの『サテリコン』を満員の封切り館で見て、映画に目覚める。「イタリア監督の新作を映画館のスクリーンで見られた時代はよかったな~」 と思っているグラフィック・デザイナー。仕事はロゴマークやブック・デザインなど多数。映画チャンネルのロゴも作成。映画に関しては:料理グループ「CUEL」がシネマライズのパンフレットに連載していた映画VS料理のコラボ企画を再構成した本 『シネマ&フード 映画を食卓に連れて帰ろう』 2020 KADOKAWAをデザインし、掲載した映画の解説も担当。関心があるのは、フィルム・ノワール。

「倉庫映画」とは?

『ロストロフト  横浜 - 横須賀 - 芝浦 』
横浜~横須賀の倉庫をまとめた大型写真集『ロストロフト』

『ロストロフト』は、写真家・安川千秋さんが、タイトルどおりに「失われた倉庫を求めて」、80年代より記録した、横浜~横須賀~芝浦を中心とした倉庫と倉庫街の写真をまとめた本です。

 安川さんがとらえた被写体は、有り体にいえば、無機的な建造物である倉庫と、その周辺の殺風景な倉庫街なのですが、近年の流通/倉庫業の変化により、ロストしてしまった風景のもつ、鈍色に発光するノスタルジックな響きに満ちています。

 波打って錆び付いたトタンの壁面や、ビルの上部に設置されたクレーンからは、まるで、古いブルースやジャズが聴こえてきそうです。

 4×5の大型カメラを担いでフィルムで撮影された写真なので、30センチ四方のレコードアルバムサイズの大型写真集にしてみました。

 書名の「ロスト」は、1949年のハンク・ウィリアムズの大ヒット曲『ロスト・ハイウェイ』からいただきました。

 ギャンブラーになり、ハイウェイに閉じ込められ、抜け出せなくなった男の歌です。

「俺はローリング・ストーン、ひとりぼっちで」と歌っています。ロックンロールの原初的イメージですね。デビッド・リンチも1997年の映画タイトルに使っています。

 デザイン・構成を手掛けたのですが、倉庫の写真を並べ、なんらかのストーリーを作るために、倉庫/倉庫街を舞台にした映画にインスパイアされました。

 何も装飾のない機能としての建造物=人間活動の箱としての「倉庫」です。意外に、疎外された人間の舞台として語ってくるものが多いんですね。

 ニューヨーク近辺の倉庫で働く労働者、用の無くなった倉庫ビルでセッションするジャズマン、そして、スーパーの倉庫や巨大配送センターを舞台にした映画もあります。まさに「倉庫映画」といってもいい。

 もちろん、倉庫は多くのアクションものや戦隊もののロケ地としても使われていますし、映画館に行けば、必ず映画泥棒のCMの背景として横浜の赤煉瓦倉庫とその周辺を見ることになります。

 また、最近では、『ラストマイル』という最新型の配送センターを舞台とした大ヒット作もあリます。

 ここでは、本を制作する時のイメージ源にもなった、人生を振り返る背景としての倉庫が出てくる、また、横浜などの港湾の倉庫街を舞台にした「倉庫映画」を選んでみました。

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