実話を基にしたバッドエンドの日本映画は? トラウマ邦画5選。観るのには覚悟が必要…心をエグる衝撃作をセレクト
実際に起きた事件や報道をもとに生み出された映画には、フィクションでは描ききれない現実の痛みと問いがある。観る者の心をえぐり、なおも考えさせる。今回は、実話をモチーフにしたバッドエンドの日本映画を5本紹介する。※映画のクライマックスについて言及があります。未見の方はご留意ください。(文・編集部)
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救えなかった命が問いかける、「支援」とは何か
『あんのこと』(2024)
監督:入江悠
キャスト:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子
【作品内容】
売春と薬物に溺れていた21歳の香川杏(河合優実)は、人情刑事・多々羅(佐藤二朗)との出会いを機に更生を目指す。だがコロナ禍が訪れ、支え合っていた彼らは孤立と不安の中ですれ違っていく。
【注目ポイント】
社会の隙間に生まれ、だれにもすくい上げられることなく命を終えたひとりの少女がいた。
2024年公開の映画『あんのこと』(監督:入江悠)は、2020年に報じられた「少女の壮絶な人生を綴った記事」に着想を得た実話ベースの作品である。
虐待、売春、薬物依存という過酷な現実を、コロナ禍の社会情勢と重ね合わせながら、実在した少女の人生を追体験するような映像が展開されていく。
主人公・杏(河合優実)は、母親からの暴力を受けて育ち、10代半ばで売春や覚醒剤に手を染める。やがて薬物使用の疑いで警察に取り調べられた際、風変わりな刑事・多々羅(佐藤二朗)と出会い、就職支援を通じて初めて居場所を得る。
一方、ジャーナリストの桐野(稲垣吾郎)は、多々羅に関する内部告発を追っていた。ふたりの大人と出会い、ようやく人生を立て直し始めた矢先、杏に降りかかるのが、コロナ禍による孤立、そして毒親の執着が彼女を追い詰め、しまいにはみずから命を絶つに至る。
この物語に、明るい未来やカタルシスは存在しない。だがそこにこそ、「なぜ救えなかったのか」という痛切な問いが込められている。
入江監督は、モデルとなった女性の死を伝える記事と、多々羅のモデルとされる元刑事に関する報道の両方を読み込み、脚本を構築。自身初の実話ベース作品に取り組むにあたり、「一生背負う覚悟」で制作に臨んだという。
主演の河合優実は決して美化することなく、ただ必死に生きようとする少女の姿を体現。彼女の中にともっていた小さな希望の火が、静かに、そして確かに消えていく様を映し出している。