史上もっとも過酷な撮影が行われた映画は?(5)氷点下83℃の過酷ロケが生んだリアリズム…究極の映画体験とは

text by 阿部早苗

極寒の雪山、吹きすさぶブリザード、そして限界ギリギリの肉体と精神。今回紹介するのは、日本映画史に残る「過酷なロケ地」で撮影された5本の邦画。役者もスタッフも命を懸けた壮絶な現場で生まれた作品には、CGでは表現しきれないリアルな臨場感が宿っている。感動と迫力の裏に隠された撮影秘話に迫る。第5回。(文・阿部早苗)

——————————

氷点下83℃の過酷ロケが生んだリアリズム

『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』(2019)

役所広司
役所広司【Getty Images】

監督:ユー・フェイ(Yu Fei)
キャスト:役所広司、チャン・ジンチュー、リン・ボーホン

【作品内容】
 ヒマラヤ地域会議を前に、機密文書を積んだ飛行機がエベレスト南部に墜落。平和を揺るがす恐れのある文書を回収すべく、インド軍は2人の特別捜査官を派遣。彼らは財政難に苦しむ救助隊「Wings」に協力を要請し、隊長ジアンは要請を受け入れる。

【注目ポイント】
 2019年に公開された映画『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』は、標高8,848メートル、氷点下83℃という極限の自然環境で知られる世界最高峰エベレストを舞台に展開される日中合作のスペクタクル・エンターテインメント。

 政治的陰謀と山岳レスキューが交錯するドラマ性もさることながら、極寒の大自然で行われた過酷なロケーション撮影が大きな話題となった作品だ。

 雪山シーンの多くは、主にカナダの極寒地帯で撮影された。酸素が薄く、気温も厳しい環境の中、キャストやスタッフはまさに命を削るような現場に身を置いていたといえるだろう。主演の役所広司もその過酷さを肌で感じたひとりだ。

 ヒマラヤ救助隊のリーダー・ジアン役として、41年の俳優人生で初となる本格的なワイヤーアクションに挑戦。27時間以上ワイヤーに吊るされるシーンを演じ、全身に青あざができるほど体を酷使した。それでもなおリアルな演技を貫き通した姿は、まさに役者魂そのものだ。

 監督のユー・フェイは、エベレストを含む数々の山岳登頂経験を持つ登山家でもある。その実体験に裏打ちされた映像表現を追求し、映画のリアリティを何よりも重視したのではないだろうか。製作費の確保には、自家用車や別荘を手放し、自宅を抵当に入れるなど、私財をなげうって作品づくりに挑んだという。その覚悟と情熱がスクリーンに焼きつけられている。

 命がけで撮影された『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』(2019)。その映像からは、極寒の中での息苦しさや、吹きつける風の冷たさ、雪に覆われた山の静寂と恐怖までもが、観る者に迫ってくる。まさに体感する映画と呼ぶにふさわしい一作である。

(文・阿部早苗)

【関連記事】
史上もっとも過酷な撮影が行われた映画は?(1)
史上もっとも過酷な撮影が行われた映画は?(2)
史上もっとも過酷な撮影が行われた日本映画は?(全紹介)
【了】

error: Content is protected !!