前半戦もついに終盤…陽にも陰にも振り切れる横浜流星の凄みとは? NHK大河『べらぼう』考察&感想レビュー【ネタバレ】

text by 田中稲

横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)が放送中だ。貸本屋からはじまり「江戸のメディア王」にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く本作。今回は、第25話までのお話を史実も交えつつ、多角的な視点で振り返る。(文・田中稲)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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前半戦終盤。陽にも、陰にも振り切れる横浜流星の凄み

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第23話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第23話 ©NHK

 耕書堂、いよいよ吉原から飛び出し、日本橋進出! ――その紆余曲折が描かれた23話から25話。横浜流星がそりゃもう粋に演じているからついつい見逃しそうになるが、蔦屋重三郎、実はかなりのデリカシー無しの助。ヤツぁ女心が、てんでわかっていない!

 24話「げにつれなきは日本橋」にて、店舗売却を拒む丸屋の店主、てい(橋本愛)に、店を一緒にする策として「俺と一緒になるってのはどうです?」と、結婚を申し込む蔦重。

 このセリフに「べらぼう(馬鹿)だなあ」では済まされず、「アンタ今なんつった?」とディスプレイ越しに突っ込んだ人は多かったのではないだろうか。安達祐実演じるりつの「自分の一人身につけ込んできたとしか思えないんじゃないかい」というご指摘、ズバリである。

 結局、このビジネス婚は成立するのだが、メガネの奥にギリシャ彫刻系の美しさを隠した、どっしりと重みのある、橋本愛との〝ちぐはぐな相性〟がすばらしい。どちらも美男美女だが全然お似合いではない。それがいい。

日本が誇る役者・横浜流星

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25話 ©NHK

『べらぼう』の蔦重は、粋も無粋も笑い飛ばし、肩で風を切るような軽やかさがある。「流れる水は腐らない」ならぬ、「吹いていく風はよどまない」的な生き方を、横浜流星が気持ちよく、軽やかに演じている。

 ピンクの髪をして、深田恭子と甘い恋愛ストーリーを演じていた『初めて恋をした日に読む話』(TBS系、2019)の頃は、失礼ながら、こんなに演技派に成長するとは思っていなかった。

 彼は私の予想を大きく裏切り、あれよあれよと頭角を現し、昨年は『正体』(2024)でアカデミー最優秀主演男優賞ほか、賞を総なめ。すっかり日本が誇る役者となった。

 現在公開中の映画『国宝』も大きな話題になっているが、それでも、よい意味で「横浜流星」という名は権威を持たない。名声がぶらさがらない。彼が演じている役と世界がすべてになる。

 日曜日20時には「横浜流星」が消え、お調子者の蔦屋重三郎として生きる。おかげで、観ている私も江戸に飛ぶ。だから数字などどうでもよくなるのだ。「べらぼう」ほど、視聴率が気にならない大河ドラマは初めてかもしれない。数字なんてしゃらくせい!

 蔦屋重三郎の人生は47年と短命で、放送の折り返し地点となった6月29日の回では、33歳。あと14年の人生だが、喜多川歌麿のブレイク、寛政の改革による弾圧、写楽とのタッグ、歌麿との別れ…など、波乱の人生はむしろこれから。横浜流星を消して、1話1話、「蔦重」として駆け抜ける姿が楽しみだ。

後半戦に大きく関わる「浅間山の大噴火」

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25話 ©NHK

 いきなり鶴屋喜衛門(風間俊介)が暖簾をプレゼント、結婚して子供が3人もいた次郎兵衛(中村蒼)、田沼意知(宮沢氷魚)を取られそうになって、2階から飛び降り掴みかかる誰袖(福原遥)など、エキサイティングにもほどがあった第25回「灰の雨降る日本橋」。

 しかし、やはり最も大きなトピックスは、「浅間山の大噴火」。天災におびえるのは現代も同じである。調べてみると、意外な事実が見えてきた。

 天明3年(1873)7月8日(旧暦)に大噴火した浅間山は、長野県北佐久郡軽井沢町及び御代田町と群馬県吾妻郡嬬恋村との境にある。その灰が、お江戸の日本橋まで降り注いだのだから、噴火がいかに大きかったがわかるだろう。

 蔦重は、この灰の後始末を楽しく工夫してやることで、日本橋から歓迎されることになる。まさに「こりゃあ恵みの灰だろう…」と呟いたとおりになったのだが、いやいやロングスパンで見れば、そんな呑気なことを言っている場合ではないのだった。

 この時起きた土石なだれにより、群馬県下では1,400名を超す犠牲者を出し、吾妻川は水害が発生。噴煙と灰で日光がさえぎられ、東北と関東を中心に深刻な凶作に陥るのだ。それは1789年まで続き、餓死者・病死者は推定13万人にも達するのだ。

 これが「天明の大飢饉」。人々は困窮を打破しようと手段を択ばなくなり、全国各地で「百姓一揆」や「打ちこわし」が頻発していくことになる。

ほぼ同時期、寛政の改革とフランス革命

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第23話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第23話 ©NHK

 同時期、似たような現象が、世界のある国でも起こっていた。浅間山大噴火の1か月前に、アイルランドで、ラキ火山が大噴火。

 こちらもまた、その後数年間にわたり、ヨーロッパに異常気象を起こすのだ。フランスも農作物の不作による深刻な食料不足に見舞われる。これが一因となり、あの有名な「フランス革命」が起こったという。

 マンガ「ベルサイユのばら」愛読者だった私だが、まさか「べらぼう」からフランス革命にたどり着くとは思っていなかった。調べてみると、マリー=アントワネットとオスカルとフェルゼンは1755年生まれ。蔦屋重三郎の5歳下だ。

 マリー=アントワネットがルイ16世の即位によりフランス王妃となったのが1774年。この年、蔦屋重三郎は彼の人生を大きく変える一冊「一目千本 華すまひ」を刊行している。やだ運命!?  

 フランスの貴族たちが楽しんだ、あの大きな髪型と、花魁の大きな髪型、ちょっと似ている。あり得ない話なのだが、耕書堂がもし当時、フランス進出できたなら、オシャレ本を出したことだろう。

 恋川春町先生は、ベルサイユをイキイキと皮肉ることだろう。「ベルサイユのバラ」でオスカルが読んで泣いていたジャン=ジャック・ルソーの「ヌーベル・エロイーズ」(1861年出版)も出版しただろうか。

 ちなみに、あの偉大なる詩人ゲーテは1749年生まれなので、蔦屋重三郎の1つ上。ほぼ同世代。びっくりである。「ゲーテ先生、うちにも一冊書いてくだせぇ。名言集なんてどうです?」とか言いそう。ああ、フィクションと史実と混在し、想像が膨らむ!

 フランス革命は1789年から1795年までの6年間。日本では、1787年から1793年までの約6年間、老中松平定信による「寛政の改革」が行われる。2年ズレはあるものの、フランスと日本、同じ時期に、文化の大きな転換期を迎えていたのである。

【著者プロフィール:田中稲】

ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。

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