横浜流星“蔦重”の発想に学ぶ…同じような時代を生きる私に足りないものとは? 大河ドラマ『べらぼう』第25話考察【ネタバレ】

text by 苫とり子

横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)が現在放送中。貸本屋からはじまり「江戸のメディア王」にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く。今回は、第25話の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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“灰”降って地固まる――。

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25話 ©NHK

 天明3(1783)年、浅間山が大噴火を起こし、関東一円に甚大な被害をもたらす。江戸の町にも灰が降り注ぎ、昼間も空が暗い状態に。

 誰もが気味悪がる中、蔦重(横浜流星)だけが「こりゃあ、恵の灰だろ」とニヤリ。そんな少々不謹慎な台詞でスタートした『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25回は、雨ならぬ“灰降って地固まる”展開となった。

 大阪の書物問屋・柏原屋(川畑泰史)から丸屋を買い取った蔦重(横浜流星)。さらには、須原屋(里見浩太朗)が所有する「抜荷の絵図」と交換条件で、意知(宮沢氷魚)に日本橋出店を後押ししてもらうことに。

 権利譲渡の証文を手に堂々と日本橋に乗り込んだ蔦重が最初に行ったのは、丸屋の瓦屋根を灰から守ること。蔦重は瓦の隙間や樋に灰が溜まらないよう、吉原から持ち出した不要な着物で屋根全体を覆い、日本橋の他の商人たちもそれに倣った。

 数日経ってようやく降灰が落ち着き、奉行所から早急に灰を川や空き地に捨てよとのお達しが。すると、蔦重は灰が降り積もった道に線を引き、町を2つのチームに分ける。その上でどちらのチームが早く灰を捨て切れるかを勝負しようと提案。

 町の人は「遊びじゃねぇんだよ」と野次を飛ばすが、蔦重はすかさず「遊びじゃねえから、遊びにすんじゃねえですか。面白くねえ仕事こそ、面白くしねえと」と言い返すのだ。

面白くない状況も、心次第で面白く

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25話 ©NHK

 その言葉で、幕末の志士・高杉晋作が臨終の際に詠んだ「おもしろきこともなき世をおもしろく」という辞世の句を思い出した。病で下の句が詠めない高杉の代わりに、看病に当たっていた野村望東尼が「すみなすものは心なりけり」と付け加えたとされる。

 たとえ面白くない状況であっても、その人の心次第で面白くできる。「どうせ分からぬなら飛び切り楽しい想像を」という朝顔姐さん(愛希れいか)の教えにも通ずる考え方だ。

 朝顔姐さんだけじゃない。借金のカタとして売られてきた女郎たち、吉原者として差別されてきた楼主たちも皆、恵まれない状況にありながらも、どうにか明るく生きようとしている。蔦重の発想の転換力は間違いなく、幼い頃から見てきた彼らから学んだものだろう。

 最初は勝負に乗り気でなかった日本橋の人たちだったが、蔦重が勝った方には10両出すと言い出した途端に張り切り出す。それに鶴屋(風間俊介)が対抗するように25両出すと宣言すると、盛り上がりはピークに。

 賞金を賭けて熱い戦いが繰り広げられ、最後は勢いに乗った蔦重が桶ごと川へダイブ。泳げもしないのに飛び込んで、結局助け出された蔦重の「誰か助けてくれると思ったんですけどね」という冗談に、鶴屋が思わず吹き出す。結局、勝負は引き分けとなり、みんなで仲良く宴となった。

 その光景を見て、やっぱりギスギスした世の中に必要なのは“祭り”だなあと思った。俄(にわか)にしろ、本づくりにしろ、灰捨て競争にしろ、みんなで何か一つのことをワイワイ成し遂げる時間が人と人との間にある壁を取っ払い、距離を近づける。

 相手も自分と同じ人間だということ。それを知るところから、“共生”がうまれる。似たような時代を生きる私たちに足りないのも、もしかしたら“祭り”なのかもしれない。

甘い雰囲気はなくともお似合いの2人

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25話 ©NHK

 さて、蔦重が日本橋の人たちと打ち解けていく様に心動かされたのが丸屋の女将・てい(橋本愛)だ。ていは中国春秋時代の越の将軍・范蠡の話を聞かせる。戦から身を引いた范蠡は陶朱公と名乗り、斉や陶の国に移り住んで、商いでその地を栄えさせた。

 そんな陶朱公のように移り住んだ土地を富み、栄えさせる才覚が蔦重にあると確信したていは「店を譲るならばそういう方にと思っておりました」と身を引く覚悟を決める。店を譲った後は出家するつもりだというていに、蔦重は「陶朱公の女房になりませんか」と改めてプロポーズ。

 2人は形式上の夫婦となり、店をともに盛り上げていくことになった。やはり甘い雰囲気は皆無だが、さっそくていが蔦重に日本橋の心得を教える様に良きパートナーになれる気運を感じた。

 吉原で行われた2人の祝言には意外な客が。あれだけ吉原を忌み嫌っていた鶴屋である。吉原で培った遊び心で、思わぬ被害に見舞われた日本橋を楽しげな空気に変えた蔦重の行いに心を動かされたのはていだけじゃない。

 鶴屋は「江戸一の利き者、いや江戸一のお祭り男は、きっとこの街をいっそう盛り上げてくれよう。そのようなところに街の総意は落ち着き、日本橋通油町は蔦屋さんを快くお迎え申し上げる所存にございます」と語り、耕書堂の暖簾を祝いの品として贈る。

 これには蔦重のみならず、忘八たちも思わず涙。その涙に長年差別を受けてきた彼らの苦悩が見えた気がした。

「いただいた暖簾、決して汚さないようにします」と覚悟の気持ちを伝えた蔦重に、「本当に頼みますよ」と笑顔を見せる鶴屋。いつもにこやか、されど今までは目が笑っていなかった鶴屋が初めて見せる優しい笑顔だった。

誰袖(福原遥)と意知(宮沢氷魚)の心が通じ合う…。

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第22話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第22話 ©NHK

 灰降って地固まったもう1組のカップルが誰袖(福原遥)と意知(宮沢氷魚)だ。日本橋と同じく灰の処理に追われていた吉原。大文字屋の2階から高みの見物を決めていた誰袖は、向かいの店の女郎・わかなみ(玉田志織)が意知を誘惑する場面を目撃し、牽制する。

 誰袖の逆鱗に触れたのはわかなみの「色と思っているのは花魁だけでは?」という言葉だ。意知は蝦夷地の件で幾度となく吉原に足を運んでいるが、今まで一度も誰袖と男女の契りを結んだことはなかった。そのため、図星を突かれたと思った誰袖は屋根から飛び降り、わかなみと掴み合いの喧嘩に。

 そんな醜態を見たら、普通の男性なら引いてしまうかもしれない。しかし、意知の場合は逆だった。今まで誰袖は自分に恋愛感情などなく、身請けしてもらうことだけが目的だと思っていた意知。

 だが、他の女郎に激しい嫉妬を露わにする誰袖を見て、その本当の思いに気づいたのだろう。男女の契りを結ばないのは患者働きさせることがより辛くなるからだと説明し、代わりに誰袖への思いをしたためた扇をプレゼントする。

「西行は花の下にて死なんとか 雲助袖の下にて死にたし」

「願はくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月の頃(できることなら釈迦が入滅した2月の満月の頃、満開の桜の木の下で、春に逝きたいものだ)」という西行法師の和歌にちなんだ狂歌で、意知は誰袖に寄せる恋心を今できる精一杯で伝えた。

「ちょいと袖の元で死んでみませんか」という誰袖の導きにより、膝枕をしてもらう意知。望月のように美しい誰袖の顔に「まずい。ひどくまずい」と言いながらも、その大きな手を伸ばさずにはいられない。

 そんな甘いひと時も目覚めれば終わる一炊の夢。それでも、ほんのわずかな間の、とても小さな幸せかもしれないが、2人の心が通じ合う瞬間があって良かった。

【著者プロフィール:苫とり子】

1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

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【了】

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