何度観ても意味不明…史上もっとも難解な日本映画5選。ワケがわからないのに面白い…難しいけど引きつけられる作品をセレクト
複雑すぎる構成、曖昧な時空、象徴だらけの演出、そして明かされない答え――観れば観るほど謎が深まる、難解な映画は、観客を何度でも作品の世界に引き戻す作品がある。今回は、日本映画の中でもとりわけ“わからないのに面白い”と語り継がれる5本をセレクト。観た人の数だけ解釈が生まれるような傑作を紹介する。※映画のクライマックスについて言及があります。未見の方はご留意ください。(文・阿部早苗)
——————————
公開2週間で打ち切りになった怪作
『幻の湖』(1982)
監督:橋本忍
脚本:橋本忍
原作:橋本忍
出演:南條玲子、隆大介、光田昌弘、かたせ梨乃
【作品内容】
風俗嬢の道子(南條玲子)は、愛犬シロとの出会いをきっかけに走り続けていた。ある日、笛を吹く男・長尾(隆大介)と出会い運命を感じるが、やがてシロが殺され、犯人が作曲家の日夏(光田昌弘)だと知った道子は復讐を誓い、東京へと向かうが…。
【注目ポイント】
1982年、東宝創立50周年記念作品として華々しく公開された映画『幻の湖』。監督・脚本・原作を務めたのは、『羅生門』(1950)『砂の器』(1974)で知られる日本映画史に燦然と輝く名脚本家・橋本忍である。本作は橋本プロダクションによる第3弾作品であり、上映時間164分におよぶ大作であった。
しかし、難解なストーリー展開は、観客の理解を大きく超え、公開からわずか2週間あまりで劇場公開は打ち切りとなる。その後長らく“失敗作”として記憶されてきたが、今ではその特異な構成と狂気すら感じさせる作風によって、カルト的な人気を誇っている。
物語の主人公は、琵琶湖畔の雄琴にあるソープ街で「お市」として働く女性・道子(南條玲子)。彼女は愛犬・シロと共に日々湖岸を走り続けていたが、ある日シロが惨殺されてしまう。犯人は東京在住の作曲家・日夏圭介(光田昌弘)であることが判明し、道子は復讐を決意して東京へ向かう。
東京で日夏を取り逃がしてしまった道子は帰郷し、銀行員の倉田(長谷川初範)からプロポーズを受けるが心を決めきれない。物語はここから予想もしない展開を見せる。
再び現れた謎の笛吹き男・長尾(隆大介)との邂逅をきっかけに、物語は突如として戦国時代の悲恋譚へと変貌していくのだ。そしてクライマックスでは、まさかのスペースシャトル打ち上げが描かれ、観る者を呆然とさせる。
本作の象徴的なシーンのひとつが、道子が延々と走り続ける姿である。サスペンス、復讐劇、恋愛ドラマ、時代劇、さらにはSFと、作品はジャンルを自在に横断しながら、常に着地点を定めず疾走し続ける。その奔放さと不条理性が、今日ではむしろ強烈な個性として評価されている。
まさに“迷作にして怪作”。『幻の湖』は、橋本忍の最後の監督作にして、日本映画の常識を覆した異色作である。