ガチで理解不能…史上最も難解な海外映画は? 謎多き名作5選。ムズいけど面白い…脳をフル回転させて観るべき作品をセレクト

text by 阿部早苗

物語を理解しようとするほど深みにハマる。そんな“難解映画”には、繰り返し観ることでしか辿り着けない魅力がある。視覚や言語のトリック、哲学的な問いかけ、時間の歪み…。脳をフル回転させてもなお謎が残る、思考型シネマの迷宮へようこそ。※この記事は、映画のクライマックスについて言及しています。未見の方はご留意ください。(文・阿部早苗)

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「夢か現実か」曖昧な境界に迷い込む謎解き映画

『マルホランド・ドライブ』(2001)

映画『マルホランド・ドライブ』の1シーン。ナオミ・ワッツ
映画『マルホランド・ドライブ』の1シーン。ナオミ・ワッツ【Getty Images】

監督:デヴィッド・リンチ
キャスト:ナオミ・ワッツ、ローラ・ハリング、ジャスティン・セロー、アン・ミラー、ダン・ヘダヤ

【作品内容】

 ロサンゼルスのマルホランド・ドライブで事故に遭い、記憶を失った黒髪の女(ローラ・エレナ・ハリング)は、女優志望のベティ(ナオミ・ワッツ)と出会い、とっさにリタと名乗る。ベティは、リタのバッグに残された手がかりを頼りに、彼女の記憶を取り戻そうとするが――。

【注目ポイント】

 デヴィッド・リンチ監督による2001年の映画『マルホランド・ドライブ』は、その圧倒的な映像美と謎めいた構成から、「難解映画の代名詞」として映画ファンの間で語り継がれている作品だ。第54回カンヌ国際映画祭では監督賞を受賞し、さらに英BBCが選出した「21世紀最高の映画100本」では堂々の第1位に輝くなど、批評家からの評価は極めて高い。だが、それとは裏腹に「一体何を観せられたのか分からなかった」という観客からの戸惑いの声も絶えない。

 物語は、ロサンゼルスのマルホランド・ドライブで起きた交通事故から始まる。事故で記憶を失った黒髪の女は、街をさまよった末、親戚の部屋を借りて暮らそうとやってきた金髪の若い女・ベティと出会い、名前を問われてとっさに「リタ」と名乗る。そんな彼女のバッグの中には大金と青い鍵が入っていた。ここから彼女の過去を探ろうとするベティの探偵ごっこのような展開が続き、前半部分はミステリ調でテンポもよく、比較的とっつきやすい。

 しかし、青い箱を発見したのを境に、登場人物の関係性や性格が一変する。さっきまで親密だったはずのベティとリタが、まるで赤の他人のような存在へと変貌し、観る者を混乱の渦へと突き落としていくのだ。

 物語に登場する2人の主人公の役割は前半と後半で対照的に描かれている。ナオミ・ワッツの演じるキャラクターは、物語の前半では「期待の新人女優ベティ」として登場するが、後半では「落ちぶれた女優ダイアン」に変化する。一方でローラ・ハリングが演じるのは、前半では「記憶を失った謎の女性リタ」、後半では「ダイアンにとってのライバルである人気女優カミーラ」である。

 このような構成から、多くの観客や批評家は、前半を「ダイアンが抱く夢や理想の世界」、後半を「現実に直面した彼女の破綻した人生」と捉えている。ただし、監督であるデヴィッド・リンチはこの解釈について明確な説明をしておらず、真相は観る者の解釈に委ねられている。

「難解であること」がしばしば敬遠されがちな現代においても、本作が20年以上にわたって支持され続けているのは、わけのわからない展開を考察する楽しさに、不思議と心を掴まれて離れられなくなる中毒性があるからだろう。

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