「3人目」が切なすぎる…横浜流星“蔦重”の激変っぷりに驚いたワケ。大河ドラマ『べらぼう』第26話考察レビュー【ネタバレ】
横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)が現在放送中。貸本屋からはじまり「江戸のメディア王」にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く。今回は、第26話の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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サブタイトル「三人の女」が切ない…。
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第26回のサブタイトルは「三人の女」。形だけの夫婦だった蔦重(横浜流星)とてい(橋本愛)が心を通じ合わせる回だ。そのかげで枕を濡らす3人目の“女”の正体が明らかになった時、とてつもない切なさが胸を襲った。
浅間山噴火の降灰と冷夏の影響によって米が不作に。米問屋や仲買の売り惜しみが原因で、江戸市中では米の値が昨年の倍に上昇。今よりもおかずが少なく米の消費量が多かった民衆の暮らしに大打撃を与える。
事態を重く受け止めた意次(渡辺謙)はすぐに対策を講じるも米の値は一向に下がらず、紀州徳川家の治貞(高橋英樹)からは非常時に備えた米、いわゆる“備蓄米”を市中に放ってはどうか、という意見も。2025年現在の日本もまさに米不足に揺れている真っ只中で、身につまされた視聴者も多かったのではないだろうか。
日本橋に進出し、晴れて大店の主人となった蔦重もその影響を大いに受ける。というのも当時の奉公人は基本住み込みで、蔦重は彼らの食事を賄わなければならない。加えてやたら店に立ち寄る戯作者や絵師たちにも食事を振舞っていたため、暮れまでもつはずだった蔵の米が残り一俵に。
この親にしてこの子あり――。
耕書堂に居座る母、つよ(高岡早紀)
そんな中、いきなり店に上がり込んできたのが1人目の“女”。夫と離縁し、7歳の蔦重を吉原に置いていった母・つよ(高岡早紀)である。
下野国で髪結いの仕事をしていたが、先の不作で生活が困窮し、江戸に流れてきたつよ。自ら捨てた息子を頼るとは、なかなかの図々しさだが、これまた憎めないキャラクターだ。
ていの説得のおかげでしばらく居候させてもらえることになったつよは、長旅の商人を捕まえてきては店の一角で髪を結い始める。しかも、無料で。代わりに髪を結っている間、客に耕書堂の本を読んでもらい、あわよくば店の売り上げに貢献しようとした。
べっぴんさんで人たらし。おまけに商才まである。蔦重はその全てを受け継いでおり、まさに「この親にしてこの子あり」だ。
米不足も駿河屋(高橋克実)から紹介してもらった馴染みの差札から古古米を安く仕入れることで乗り越えた蔦重。さらには人々の不満が溜まっている今だからこそ、とめでたいムードを作るべく黄表紙仕立ての狂歌集の出版に乗り出す。
「おていさんは俺が俺のためだけに目利きした」
想いが通じ合った2人
そんな逞しい蔦重に惹かれていくと同時に、劣等感を覚えるのがていだ。金目当てとは気づかずにしつこく言い寄ってきた最初の夫と離婚。その夫の吉原通いのせいで亡き父から受け継いだ店を潰してしまったことで、ていは女としても経営者としてもすっかり自信を失ってしまったのだろう。
「江戸一の利者に自分は相応しくない」と身を引こうとするていを蔦重は引き止め、「説教めいた話はおもしれえし、縁の力持ちなところも、背筋がピンとしているところも好き」とひたすら自分が気づいた彼女の魅力を語り聞かせる。
しかし、そんなのは後付けで、初めて会った時からていに運命を感じていた蔦重。自分と同じように数々の挫折や失敗を味わいながらも、本が持つ力を信じて前に進んできたていとなら、何があっても乗り越えていける。そう確信したからこそ、一緒になった。
「おていさんは俺が俺のためだけに目利きした、俺のたった1人の女房でさ」なんてロマンチックな言葉、いつの間に言えるようになったのだろう。瀬川(小芝風花)の長年の恋心に気づかなかった鈍感ボーイはもう卒業。若干の寂しさを覚えつつも、蔦重がていの身も心も温かく包み込むシーンに思わず胸が熱くなった。
隠れて枕を濡らす“3人目”
そのふすまを一枚隔てた向こうで、枕を濡らしていたのは歌麿(染谷将太)だ。
酔っ払った蔦重に押し倒された時の幸せそうな表情や、蔦重の結婚が決まった時の不服そうな顔から、歌麿が蔦重に寄せる思いについては以前から察するものがあった。というより、これまでのことを考えても好きにならないという方が難しいというものだろう。
蔦重に人生のどん底から二度も救ってもらった歌麿。それだけではない。幼い頃から対価を払うことでしか、人に愛されることがなかった歌麿にとって、蔦重は初めて無償の愛をくれた人だったのではないだろうか。
「俺のために生きてくれ」と言ってくれた蔦重は、たとえ自分が何の役にも立たなかったとしてもそばに置いてくれる。それは十分理解している。けれど、好きだからこそ、その人の確かな存在になりたいと願ってしまうのが人間だ。
今までは唯一の奉公人だったけれど、蔦重が大店の主人になったことで、それもなくなってしまった。戸籍上は弟になっているが、結局はそれも偽でしかない。
そんな歌麿からすれば、つよやていが羨ましく思えるのではないだろうか。母親なら血を分けることができるし、妻なら堂々と一番近くで支えられる。サブタイトル「三人の女」の3人目は、生まれ変わったら“女”になりたいと願う歌麿だ。
その密かな思いを「歌麿門人千代女」という偽名に込めた歌麿。今はまだ残る恋心を、おそらく、彼は蔦重のもとで“当代一の絵師”になることで乗り越えていくのだろう。
【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
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